第八百八十六話
「玉藻お姉さん、転送用の渦が五つあります。一つは戻る渦ですが・・・」
「残りの四つのうち三つは偽物じゃろうな」
三つの偽物のうち一つが俺を一階層に戻した渦モドキの筈だ。その渦は除外出来るとして、残りの三つの中でどれが二十一階層に通じる渦なのかが問題だ。
「アーシャ、二十一階層に通じる渦はどれかを意識して視てもらえぬか?」
「やってみます・・・あっ、一つだけですね」
二つ以上あったらどうしようかと思っていたが、その心配は無用だった。まあ、偽物の渦であれ二十一階層に行けるのならば構わないのだけど。
アーシャの案内に従い遺跡を歩くのだが、途中壁や柱、地面に擬態したモンスターに襲われる事となった。
「こ奴ら、地面にも擬態するとはのぅ。普通のパーティーならば、この階層を歩く時は常に気を張っている必要がありそうじゃな」
「私達はアーシャちゃんが居所を教えてくれるから丸わかりよねぇ」
と言いつつアーシャが指定した壺にキューブの火の玉を撃ち込む舞。壺は一発で魔石に変化してしまった。
「擬態という特殊能力に頼っている為か、生命力と防御力が低いみたいですね」
「劣化版ながら擬態した物の特性を使えるようじゃしの。それにリソースを使うておるのじゃろう」
アーシャの案内で着いたのは、普通の一軒家だったと思われる遺構の中だった。屋根は残っているので、空歩を使って探し回っても発見出来なかっただろう。
「これって、全ての家の中を虱潰しに探さないと見つからないわよね。流石アーシャちゃん。略してさすアー!」
「早期に発見出来るかは完全に運次第じゃな。その略し方には賛成出来ぬが、アーシャの力が凄いという事には同意じゃ」
では待望の二十一階層に皆で進出・・・とはせずに迷い家の入り口を開いて舞とアーシャに入るよう促す。
「ええっ、一緒に行きたい!」
「その望み、叶えたいのは山々なのじゃがな。二十一階層のモンスターは影兎じゃ。影から飛び出す兎の攻撃に舞の守りが間に合わぬ恐れがあるでな」
足元という超至近距離からの攻撃では慣性制御による防御が間に合わない可能性が高い。舞の防御は自分達の周囲に入り込めない障壁を作るという物だ。
なので、その障壁の内側に出てこられた場合その敵と守護対象の間に新たな障壁を張らねばならないのだ。
「でも、アーシャちゃんのスキル抜きで二十二階層への渦を探すの?」
「くっ、それを言われると弱いのじゃ」
走り回って渦を探すのでは時間がかかり過ぎる。運よくすぐに見つかれば良いが、期待しない方が良いだろう。
良い方に考えていて実現せず落胆するよりも、悪い方に考えていてそれを回避出来て安堵する方が精神衛生上よろしいと思う。
「それでは二十一階層に入ってすぐ渦を探して、方向を教えたら迷い家に退避するというのはどうでしょう?」
「それが妥協点かのぅ。影をどうにか出来れば良いのじゃが・・・」
俺達はアーシャの提案を採用する事にして二十一階層に進出するのだった。




