第八百八十四話
前方で戦闘中のパーティーは俺に気付いていない。スタンスラッグへの対応に全力を注いでいるので、周囲に気を配る余力が無いようだ。
ダンジョンでの接敵は基本的に個別だが、夫婦鶏などの例外も存在する。そして今回のように一匹の敵に時間がかかっていると移動していた敵に捕捉される恐れもある。
スタンスラッグは素早さが低いのでその心配は無いと言える。だから眼前の敵に集中しているのかもしれない。しかし、敵はモンスターだけとは限らない。悲しい事に人が人の脅威になる事もままあるのだ。
今回の例で言えば、後から来たパーティー(俺)が先行しているパーティーに追いついている。もし俺が邪な考えを持っていたらどうしていたであろうか。
疲弊した前衛に魔力を使い果たした後衛のパーティー。後衛は妙齢の女性である。前衛は簡単に無力化出来る上、後衛は何も出来ない。
ついでに、他のパーティーが来る可能性は極めて少ないのだ。俺はやらないが、前衛を全滅させて後衛を好きに扱うなんて事も出来てしまう状況なのだ。
「デンシカの角、早急に集めるべきかのぅ」
それを防止する手段の一つが中継だ。録画では機器を破壊されたらそれまでだが、中継ならば撮られた映像は地上に送られる。機器を壊しても犯人は特定出来るのだ。
「ダメだ、撤退するぞ」
「だから止めておこうって言ったじゃない!」
おっと、思考に耽っていたら戦闘を諦めたようだ。こちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。次の分かれ道まで少々距離があるし、迷宮の通路には隠れる場所も存在しない。
普通なら戻ってきたパーティーと鉢合わせ!となる所だが、俺には奥の手があるのだ。はい、どこでもド・・・ゲフンゲフン、迷い家!(CV大山のぶ代さん)
迷い家の入り口を出した俺は素早く入って入り口を消した。すると先程まで俺が居た位置を撤退してきたパーティーが駆け抜けて行った。
「あれ、玉藻お姉さんどうしたのですか?」
振り返ると、瑞々しい野菜を乗せた籠を持ったアーシャが近づいて来ていた。夕食用の野菜を収穫している時に俺が入ってきたようだ。
彼らが戻って来る可能性もあるので休憩を兼ねて時間を置く事にした。居間に行くと舞がみかんの皮を剥いている。
「そんなに剥いてどうするのじゃ?」
「あっ、玉藻お姉ちゃんお帰りなさい。これはシロップ漬けを作るの」
舞も自分でおやつを作ってみたいと簡単な物から挑戦しているそうだ。お兄ちゃんにもくれるそうなので楽しみに待つとしよう。
野菜をキッチンに置きに行ったアーシャも合流してきたので、戻った理由を話す。尚、お茶請けはカットされたキュウリに味噌を付けていただく。
「玉藻お姉ちゃん、それなら舞とアーシャも一緒に行くよ。ナメクジは舞が壁際に除けるから」
「私がそのパーティーを監視します。そうすれば接触せずに抜けられますね」
こうして、十八階層は三人で攻略する事が決まったのであった。




