第八百八十話
「確認は出来ておらぬが、妾の予想が正しければ柱や壁に擬態したモンスターも居る筈じゃ。しらずに二十階層に足を踏み入れれば奇襲を受ける恐れがあるのじゃよ」
「成る程、確かに危険ですな。しかし、当ダンジョンは十八階層が最高到達階層です。二十階層での事故を心配する必要は無いのではありませんか?」
ギルド長の意見は正しい。これまでこのダンジョンで二十階層に到達した探索者が居ない以上、二十階層での奇襲を心配するのは意味がないように思える。
「これまではそうじゃろう。じゃがな、十八階層のスタンスラッグは倒せぬモンスターではないのじゃよ。迷宮フィールドという面倒な地形故進む者がおらんかっただけの話じゃ」
三十二階層のスリープシープのように、倒せないから先に進めなかったのとは訳が違う。手間と時間がかかる事に目を瞑れば十九階層に進む事は可能なのだ。
「神使様が言われる通り、二十階層に進める探索者が居てもおかしくありません。しかし、神使様の攻略が終われば遥かに楽に攻略出来るようになるのです。不便な今の段階で進む者が居るとは思えないのですが」
攻略が終わり設定が変更されれば地上から潜る階層を選択出来るようになる。そして、各階層から直接地上に戻れるようにもなる。
難易度という点では選択変更された後で攻略を進めた方が楽ではあるのだが。ギルド長は先行利益という物を失念しているな。
「じゃがな、設定変更された際に十八階層に跳べる者と二十階層に跳べる者。どちらがより利益を出せると思うかのぅ」
「それは勿論、二十階層から・・・成る程、今のうちに潜れる階層を深くしておこうという探索者が現れるという事ですね」
その通りだ。そして二十階層に進出した探索者が奇襲を受けた時、この情報を知っていて出さなかった場合責任を問われる恐れがあると思うのだ。
「無機物に擬態するモンスターが居るという情報があるだけでも危険度は下がるじゃろう」
「ですな。しかし、二十階層に新種のモンスターが居ると公表したら二十階層を目指す探索者が増えませんか?」
新たなモンスターの情報は金や名声になる場合がある。逸早く新種のモンスターの動画を撮り動画サイトに投下すれば間違いなく数字を稼ぐ事が出来る。
「その可能性は否定出来ぬな。故に妾からは公表せよとも公表するなとも言えぬ」
「わっ、私に判断しろと仰るので?」
「それがこのギルドを束ねる長たるお主の仕事じゃろう。上(陸軍)に伺うという手もあるが、時間がかかるじゃろうな」
もし二十階層に行く探索者が居て公表前に奇襲を受けた場合目も当てられない。ギルドは何故情報を得てすぐに公表しなかったのかと責められるだろう。
「伝えるべき事は伝えた故、妾は市ヶ谷に行かねばならぬ。関中佐に報告せねばならんでな」
上司への報連相は欠かしてはいけません。例え神の使いでもそれはちゃんと守ります。
「すまぬが、屋上に上がる許可を貰えぬか?玄関から出ると囲まれそうでのぅ」
ギルド長から許可を貰った俺はギルドの屋上から空歩で空に駆け上がった。少し距離があるけど、このまま市ヶ谷まで駆けた方が楽だろうな。




