第八百七十七話
上空から空歩で遺跡を巡る。高度な文明を誇ったであろう街並みは、今は崩れかつての繁栄を偲ばせるのみ。
通りには市の喧騒もなく、裏路地に子供の声も響かない。人の影はなく、ただ静寂のみが支配する遺跡は物悲しくそこにあった。
「これは、建物まで調べたら年単位でかかるやもしれぬなぁ」
日本程の高層建築は確認出来ないが、五階建てくらいの建物は点在していた。その中の全ての部屋を調べるなんてやってられない。
初日は階層の三割程を探索して終了。建物の陰になる路地も丹念に探索した為時間がかかってしまった。それでも見落として建物内部の探索に入るよりマシだ。
そして二日目の昼近く、幸運な事に俺は探し求めていた二十一階層への渦を見つける事が出来た。しかもすぐ近くには宝箱まで鎮座している。
「これは妾へのご褒美かのぅ。新たな大盾が入手出来たら嬉しいのじゃが」
物欲センサーの兄貴には有給休暇を取ってバカンスにでも行って貰えていたら有難い。そんな事を考えながら宝箱の蓋に手をかけた。
「ぬっ、何じゃこれは!」
開けた瞬間、内部より触手のような物が複数飛び出し俺の上半身に巻き付く。そして宝箱に引き込むと蓋が閉じて俺の腰辺りで分断して閉じようとする。
しかし当たる感触が平坦ではなく点で当たっているので、鋸の刃のようにギザギザになっているようだ。これはどんな状況だ?
「取り敢えず暗いよ、怖いよ、狭いよーと言っておくべきかのぅ」
宝箱はこれ以上俺を引きずり込む事が出来ない様子で、閉じた蓋も玉藻の防御力を貫通する程の威力は無いようだ。
この巫女服の防御力が効果を発揮したのは、何気に今が初めてなのではなかろうか。宇迦之御魂神様、優秀な装備をいただきありがとう御座います!
現状を打破する為に神炎さんを出してこの宝箱モドキのモンスターだけを焼いてもらう。体内から焼かれた宝箱モドキは呆気なく魔石へと姿を変えた。
そしてその隣には「ハズレ」と書かれた紙切れが一枚。これは宝箱の中身だったと思って良いのだろうか。神炎さんで焼きたいのを堪えて回収する。
「ふう、えらい目にあったのぅ。頭がベトベトじゃ」
見た目は宝箱だったが、無機物ではなく生物系のモンスターだったのだろう。食われていた上半身に唾液と思われるベタベタした液が付着していた。
二十一階層への渦はすぐそこにある。慌てる必要も無い為迷い家を出して休憩する事にした。ベタベタな液に塗れたままて探索なんてしたくない。
巫女服は洗濯機にかけて俺は風呂に入り念入りに髪と身体を洗う。そして湯船に浸かりながらさっきの出来事を振り返った。
「迂闊じゃった。思えば渦の探索時にブロンズゴーレムを一体も見ておらなんだ。あれはこの階層のモンスターがブロンズゴーレムではなく宝箱モドキだからなのじゃろう」
俺は無意識にレアモンスターは出ないと思っていた。何せここの三階層にはレアモンスターの黄金虫が出現する。一つのダンジョンに二種類のレアモンスターが出現するのは極々稀なのだ。
巫女服の防御力で事なきを得たが、ここはいつ命を落としても不思議ではないダンジョンだ。気を引き締めてかからなければな。




