第八百七十三話
後ろ髪を引かれる思いで癒しのニャンコを手放した俺は空歩を使い十階層への渦を目指し走っていた。溶かしてしまった盾の補充をしたいという気持ちもあるが、時間がかかるのでそれはまたの機会にしよう。
九階層の半ば程を走った時、玉藻イヤーが人の声を捉えた。ダンジョン入り口を固めていた職員さん曰く、今日は誰も入れていないとの話だったのだが。
放置して進むのも気が引けるので声の主を確かめに行く。声は十階層への最短距離から外れた場所から聞こえてくる。
「た、助けてくれー」
間違いない、人が助けを呼んでいる。ダンジョンは自己責任。見捨てた所で何の罪にも問われはしないが見捨てて行ける程薄情ではない。
「誰かいないかー」
声を辿ると落とし亀の巣穴がポッカリと空いていて、その中から叫び声がしていた。中を覗くとまだ若そうな男性二人が亀の甲羅に乗っている。男性の片方は片手剣、片方は盾を装備していて大亀の噛みつき攻撃を盾持ちが防いでいた。
「お主ら、何をやっておる。さっさと倒して上がらぬか」
「倒せれば助けなんて呼ばないって!頼む、助けてくれ!」
よくよく観察してみれば、片手剣はボロボロで今にも折れてしまいそうな惨状だった。あれでは亀さんの頭に攻撃した瞬間剣のほうが砕けてしまうだろう。
「ふむ、では亀を丸焼きにするが慌てるでないぞ」
「丸焼きって、火魔法使いか。そんな事したら俺達まで焼けるだろうが!」
「よせ!別の方法で・・・ちょっ、止めろーっ!」
これみよがしに出した神炎さんを見せつけながら落とし亀の穴に投下する。二人の男性は慌てふためくが、それに構わず神炎さんは落とし亀の尻尾付近に落下した。
「うっ、うわっ!あつ・・・くない。何だこれ?」
「燃えてる、よな。なのに全然熱を感じない・・・」
落とし亀だけを燃やすように命じた神炎さんは落とし亀だけを焼いている。戸惑う男性二人を他所に丸焼きとなった落とし亀さんは魔石となって巣穴ごと焼滅した。
「して、お主らは何故にあのような場所におったのじゃ?」
「えっ、巫女服に狐耳・・・」
「もっ、もしかして神使様!」
助けた相手が俺だと認識した瞬間、二人は綺麗な土下座を披露した。土下座なんてしないで、俺の質問に答えてほしかったのだけど。
「俺達は昨日からここで宝箱を探していました」
「ここなら亀の巣穴に気をつければ宝箱を見つけられると思ったのです」
探索者の中には一攫千金を夢見て宝箱を探し続けるパーティーもあるとは聞いていた。山師のように感じるかもしれないが、彼らのような人達が居るので宝箱の武具が出回るという側面もある。
「巣穴を避けて探索していたのですが、宝箱を見つけてつい・・・慌ててしまい甲羅を剣で攻撃してこのザマです」
「ああ、成る程のう」
周囲を見回すと、少し離れた場所に宝箱が鎮座していた。目当ての宝箱を見つけ、警戒が疎かになって巣穴に落ちたと。
「事情は理解した。念の為十階層への渦まで送る故、その前に宝箱を確認するがよい」
「えっ、いや、宝箱も玉藻様に・・・」
「それはそなたらが見つけた物じゃ。そなたらの物とするのが妥当じゃよ」
宝箱から出てきたのは、可愛い幼女の顔がプリントされたTシャツだった。何かの効果付きであったとしても使うにはかなりの勇気が要るだろう。
命をかけて結果がこれというのは同情してしまうが、これがダンジョンというものだ。二人とも、強く生きてくれ。




