第八百七十二話
ダンジョンに入った俺は、八階層まで一気に駆け抜けた。今回潜る目的は設定の変更である。モンスターを狩って間引きする事ではない。
やらないよりはやった方が良いのだが、ここは桶川ダンジョンや水中ダンジョンと違い探索者が多い。なので俺が間引かなくても氾濫を起こす心配は無いのだ。
「にゃ、にゃ〜ん」
八階層に降りてすぐ、この階層を司るモンスターが現れた。俺はしゃがんで用意していたアイテムを使用する。
「ほれほれ、猫じゃらしじゃぞ」
猫と言えば猫じゃらし。この間の出張の時、ペットショップに立ち寄った際に店員さんお薦めの物を購入していたのだ。
不幸事故によりこれの出番は無かったので、その分ここで活躍してもらうつもりだ。
「にゃっ?にゃにゃにゃっ!」
「こら、待つのじゃ。何故に逃げるのじゃ!」
迷い猫は何かに怯えるように逃げ出してしまった。しかしモンスターといえ迷い猫のステータスは普通の猫と変わらない。彼らの脅威は魅了のみである。
「どこに行こうと言うのじゃ?そなたらモンスターは妾達と戦うのが仕事じゃろうに」
「にゃっ!にゃにゃにゃにゃにゃ!」
難なく背後を取り抱き上げる。しかし迷い猫は暴れて逃げ出そうと必死に藻掻いていた。神気は限界まで抑えているのは何故だろう。
「これこれ、暴れるでない。大人しく妾にモフられぬか」
モフるなら自分の尻尾をモフれば良いと思う人もいるかもしれない。玉藻の尻尾は最高だ。このモフモフに勝てるモフモフは存在しないと思う。
しかしだ、俺が自分の尻尾をモフるのとニャンコをモフるのは別腹なのだ。目の前にトロトロに煮込まれた角煮があるとしよう。サクサクに揚げられたトンカツを食べたばかりだから角煮は食べないか?と問われれば大体の人は食べると答えると思う。
それと同じなのだ。モフモフ欲は自分の尻尾でも満たす事は出来る。しかし、ニャンコをモフる事でしか得られない成分というのも確かに存在するのだ。
「ほれほれ、諦めて自分の仕事を全うせい。妾を魅了してみせるがよい」
尚も足掻く迷い猫を撫で回し、モフり、顔を埋めてニャンコ成分を吸い込む。迷い猫は疲れたのか諦めたのか、抵抗する事を止めていた。
モフモフ、ナデナデ、スハスハしながら九階層への渦に向かって歩く。迷い猫の目が死んだ魚の目のように虚ろになっているが細かい事は気にしない。
「むっ、もう九階層への渦に着いてしもうたわ。この子を九階層に連れて行く訳には・・・いかぬじゃろうなぁ」
八階層のモンスターを九階層に連れ込めば、それが氾濫の原因になるかもしれない。地上に向かう訳では無いのでセーフかもしれないが、試してみて氾濫を起こす訳には行かない。
「お主のモフモフ、見事であった。そなたの事は決して忘れぬぞ」
断腸の思いで神炎を発動する。消えゆく迷い猫の表情が穏やかだったのが救いだった。
「さて、モフモフ成分も補給した事じゃし先を急ぐとしようかのぅ」
決心を新たに九階層への渦に飛び込む。九階層は落とし亀なので完全スルーで進む事にしよう。




