第八百七十一話
「ギルドに行くのにコレはちと恥ずかしいのぅ」
「玉藻様、お気持ちは痛い程分かります。しかし必要な事なのです」
合同庁舎での挨拶を終えダンジョンに潜る為ギルドに移動中なのだが、移動方法はここまでと同じく護衛を引き連れた車列での移動である。
これからダンジョンでモンスター達と戦おうという人間を仰々しく護衛するなんて何の冗談だ?とツッコミを入れたくなるが、これも必要性があっての事なのだ。
「おい、来たぞ!」
「本当に大宮から入るのか・・・」
大宮ダンジョンに潜る事は広く告知されていた為、ギルド前には報道陣や野次馬、探索者が詰めかけていた。
警察が規制線を張り確保されたスペースに俺と同乗していた大宮ギルドのギルド長が降りる。そして人々の注目を集めたままギルドに入り、受付前で立ち止まる。
「聞け!これより玉藻様がこの大宮ダンジョンの攻略を開始なされる。軍と宮内省の発表にて知っていると思うが、完全攻略された暁には潜る際に階層指定を行えたり潜った先の階層から直接地上への帰還が可能となる」
ギルド長の口上に集まっている探索者達のざわめきが大きくなる。軍や宮内省がそう発表してはいるが、誰もそれを体験した訳では無い。なので半信半疑だったのだろう。
しかし、今ここで身近な存在であるここのギルドのギルド長が断言した。それにより実感が湧いてきたようだった。
「とはいえ今日の今日という訳にはいかぬ。言うまでもなかろうが、最奥に到達するには時をかける必要があるでな」
「どれだけの日数がかかるかは分からない。その理由は実際にダンジョンに潜っているお前らには言うまでもなく分かっているだろう」
地図がある階層ならば最短距離を駆け抜ければ良いのだが、未踏階層では次の階層への渦を探し回らなければならない。
すぐに見つかれば良いが、何日も見つからないという場合もある。なので攻略に要する日数は完全に未定なのだ。
「だが、玉藻様ならば絶対にこのダンジョンを制覇して下さる。その日その時に渦の仕様が変わっても慌てる事なく対応して欲しい」
探索者達から大きな歓声が上がり、自然発生的に玉藻様コールが湧き上がった。少し恥ずかしいが手と尻尾を振って応えると、歓声は更に大きくなった。
「それでは妾は潜るとしようぞ。ギルド長、後は頼むぞえ」
「はっ、畏まりました。玉藻様の無事なお戻りをお待ちしております」
深く頭を下げるギルド長と多くの探索者からの歓声に送られてダンジョンのある場所へと進む。は、恥ずかしいから逃げたんじゃ無いからねっ!
「本日は一般の探索者の入場を規制している為、他の探索者は居ない筈です。お気をつけて」
「うむ、お役目ご苦労」
渦を警備している職員が現状を報告し頭を下げる。俺は労を労ってダンジョンの渦へと進入した。
「さて、漸く人目が無くなったのぅ。今上陛下が迷い家で羽目を外す気持ち、今なら理解出来そうじゃ」
このダンジョンの攻略が終わったら、陛下を迷い家に招く頻度を上げようと心に留めつつ二階層への渦へと走るのだった。




