第八百七十話
「玉藻様、私は県知事を務めております・・・」
「ご尊顔を拝する栄誉に賜り・・・」
「玉藻様、さいたま商工会議所の役員で・・・」
馬耳東風という諺がある。あれは他人の意見や風評を聞き流す様を表した諺だが、狐耳が自己紹介を聞き流す様は狐耳東風とでも表そうか。
俺は今、埼玉県の有力者と言われる人々の挨拶を次から次へと受けている。高性能な玉藻イヤーはそれを一つ一つ聞き分けてはいる。
しかし、聞き分けている事と印象に残っている事は別である。覚えないのは無礼にあたるので、一応記憶領域の隅の隅に格納はする。しかし、それがこの先意識に浮上するかどうかは未定である。
大体、この場に居る者で俺との接点がある者など範囲を広めにしても三名しかいないのだ。その三名もちょっと気まずいので親しく話すという間柄ではない。
まず一人目は冒頭に挨拶をした埼玉県知事だ。彼はとある事件で失脚した前県知事の後を継いでこの埼玉県の知事となった。
その事件とは秩父で発生したDQNな犯罪者と一部警察官が癒着し、DQNが好き放題やっていたという物である。
知事からすれば知事の座につけたのは俺のお陰と言えるのだが、次は自分が何かの事件で責任を取らされるのではと身構えてしまうだろう。
実際、お忍びお買い物の時に知事にも迷惑がかかっていただろうしね。俺が意図して起こした事件ではないが、関わっていたのは事実だからな。
二人目は埼玉県警本部長さんである。これまた秩父の事件により交代した人物だが、彼もお忍びお買い物の時に多大な迷惑を蒙ったであろう事は容易に想像がつく。
最後の三人目は陸軍大宮基地の司令官さんだ。この人もお忍びお買い物の際に手を借りている。そして鈴代君を保護してもらっている恩がある。
それだけならば良いのだが、今回のイベントにおいて地元部隊である大宮基地の面々は俺の護衛から外されている為少々気不味い。その理由がこちらではなく大宮基地の方にある為基地司令も負い目を感じているようなのだ。
大宮基地が玉藻の氷川神社参拝に参加出来なかった理由・・・それは、大宮基地の面々が氷川神社の巫女さん達に警戒されるかららしい。
理由は簡単に想像がつくと思うが、基地の面々による巫女さんへのナンパと失敗である。強引に迫られたりといった事は無かったそうだが、筋肉全開な将兵からのアプローチが暑苦しかったのだろうと予想している。
尚、彼らは大宮ダンジョンのギルドからも緊急時以外出禁を言い渡されているらしい。その理由は言明する必要は無いだろう。
因みに、最近になって大宮ギルドに付随して建てられている病院からも同様の措置が取られたそうだ。合コンで全滅したとは聞いていたけど、何をやらかしたんだ?
そんな事を考えながら有力者と言われる人達の挨拶を笑顔を浮かべつつ聞き流す。本来ならこれを国会議員とか与党有力者とか財界の重鎮なんて人達とさせられていた筈なのだ。
それから俺を守ってくれている陸軍や宮内省には本当に感謝だな。この恩はダンジョンを攻略する事で返す事にしようかね。




