第八百六十九話
「誰ぞ、彼らの介抱を。素戔嗚尊様の神気にあてられたのじゃろう、本殿から離せばじきに回復しよう」
「はっ、直ちに」
隅の方で撮影を許可されていたテレビ局のクルーが倒れていた。そのままには出来ないので介抱し本殿から出すように指示を出す。
俺が素戔嗚尊様の神域に招かれた際と戻った際、この本殿は刹那の時とはいえ神域と繋がっていたのだ。神域から神気が漏れてしまった可能性は十分にある。
神職の人達が無事だったのは、彼らがこの神社にて過ごす時が長い為素戔嗚尊様の神気に慣れているのだろう。
一般の人でも神社に入った瞬間空気が変わったのを感じるという事はあるだろう。それは御祭神の神力に影響されているからなのだ。
それは分祀された神社よりも御祭神がおわす本社の方が大きい。御本人(神)が居るのだから当然だ。この神社の神職の方々はそれに触れ鍛えられているのだ。
そんなトラブルはあったものの、素戔嗚尊様にご挨拶するという目的は果たした。もうここでやるべき事は無い。
「素戔嗚尊様、稲田姫様、大己貴命様には御機嫌よろしく、供物も受け取っていただいた。今後も社を頼むぞえ」
「はっ、誠心誠意尊き方々に仕えさせていただきます」
神職の方々に言葉をかけて本殿の出口に体を向ける。歩き出すと宮司殿が続き、通過した場所に伏していた巫女さんや禰宜さんが立ち上がり後に続く。
拝殿から外に出ると報道陣や観衆から声が上がった。あのテレビ局は生中継を行っていないので、拝殿に入ってからは俺達の言動は知られていない。
行きと同様、神職の方々の行列を引き連れて参道を歩く。桜色に染まる参道を白い巫女服や狩衣を着た集団が進む。
そんな中、頭上の玉藻イヤーが不穏な音を捉えてピクピクと動く。この祭典にケチをつけようとしている勢力が妨害行為を行おうとしているのだろう。
だが、先輩方や他国の協力的な機関により阻止すると聞いている。気にはなるが、今の俺は神事を行なっている神使なので応援に行く事は出来ない。
マスコミや観衆に悟られぬよう前を向いて歩く。耳が動いてしまうのは抑えられなかったが、対テロ作戦を察知しているなんてバレないだろう。
何事もなく県道との交差点まで戻り、待機していた車両に乗り込む。その前に立ち止まり、送ってくれた神職さんの方に振り返る。
「見送り、大義であった。そならの忠勤、妾は頼もしく思うぞえ」
「勿体なきお言葉。我ら一同、これまで以上に神々にお仕え致す所存に御座います」
再度平伏した神職達。俺は来た時と同じ車に乗り込むとその場を後にしたのだった。
これで公式の氷川神社参拝は終了した。後は大宮ダンジョンに潜って溜まったストレスを解放するだけ・・・ならば良いのだが。
車は参道が終わる一つ手前の交差点で右折して参道から外れる。向かうのはさいたま新都心合同庁舎。次は県のお偉いさんへの対応が待っているのであった。




