第八百五十一話
受勲式の後、帝国は軽い混乱に包まれた。事件の余波が思ったよりも多方面に波及したせいだ。
まずは事件の大元である帝国海軍。一部の過激な者からは解体すべしとの意見も出たが、海外に展開する艦隊の制御も必要なのでそれは出来なかった。
しかし責任は取らせる必要があった為、上層部の多くが挙って予備役に入ったり降格する事となった。そして海軍は深刻な人材不足に陥った。
海軍はニコライ皇帝陛下とアナスタシア皇女殿下の件で多くの将官の首が飛び、急遽佐官を将官にでっち上げたばかりであった。
引き抜かれた佐官の穴は尉官を宛て、異動した尉官の穴は優秀な兵を特務尉官として強引に引き上げる事で何とかやり繰りしていたのだ。
なのにその将官が一斉に予備役に入ってしまった。前回と同じように佐官を将官にしようとしても、一年前まで尉官だった者達だ。上手くいく筈が無い。
二進も三進もいかなくなった海軍は、恥も外聞もかなぐり捨てて陸軍に泣きついた。海軍からの懇願を受けた陸軍は、海軍に人材を派遣する事を決定した。
これは海軍内に陸軍の手の者が入る事により、海軍を陸軍の傀儡にしてしまおうという思惑があった。海軍はそれを見抜いていたが、それでも派遣してもらわねば組織自体が崩壊する。
「まさか儂のような者まで駆り出されるとは思わんかった」
「准将のように優秀な人を遊ばせておくより良いと思いますよ」
とは言え陸軍とて人材にそう余裕がある訳では無い。それに海軍への転属を嫌がる者も多い。そんな中、俺の所に海軍への転籍が決まった緒方准将が転籍の挨拶に訪れた。
彼は一階級降格の上海軍に転籍という処置が取られた。陸軍としては手元に置く訳にいかない罪人であり、厄介払いが出来る。海軍は罪人とはいえ優秀な将官を一人確保できる。
双方に利点がある人事という事で反対する者もおらず、トントン拍子に話は決まったそうだ。そこに本人の意思は反映されていないが、まんざらでもなさそうだ。
「ダンジョン攻略を行う陸軍と違い、海軍はスキルに拘っていないそうだ。儂は海軍の方が合っているかもしれん」
「准将、海軍で頑張って下さい」
海軍への移籍組は苦労する事となりそうだけど、何とか海軍の再建をやり遂げてほしい。緒方准将ならばやってくれると俺は信じている。
尚、今回の件でその存在を明るみにした潜水艦だが、近衛のように天皇家直轄の存在となる事が正式に発布された。
これにより一部の港湾に潜水艦接舷用施設が建設される事が決定した。ニックの部下達の所属も正式に宮内省となる。
彼らの指揮権をニックから取り上げる格好になってしまうが、謝罪する今上陛下とそれを笑って許すニックという光景が迷い家で見られた。
転覆した駆逐艦はなかぜは引き上げられ廃艦処分となった。廃艦にするのなら多額の予算を使って引き上げなくてもと思ったが、現場の水深が浅い為座礁の原因となる恐れがあったそうだ。
そんなこんなでドタバタした陸軍と海軍だったが、何とか事態は収束した。しかし事件の影響はこれだけではないのであった。




