第八百五十話
「大尉、君を近衛にと陛下が仰った理由を説明しよう。まずはそのスキルだ。有事の際に大きな力となってくれるだろう」
戸惑う石川大尉に関中佐が近衛に誘った理由を話し始めた。彼のスキルか有用なのは誰の目にも明らかだ。異議を唱える者はいないだろう。
「そして、君が海軍に残るのは難しい。一人で事件を解決し手柄を独占した君への嫉妬は止まないだろう」
今回海軍の者が起こした不始末、最低でも海軍が解決する必要があった。一応それは叶ったのだが、それを成した大尉は表向き陸軍の士官候補生となっている。
純粋に海軍の者と言えない士官が独力で解決し手柄を独占したのだ。海軍にはそれを快く思わぬ者が多く居るだろう。
「なので君が陸軍に移籍する事は不可避となる。候補生として大尉が派遣された部署からは大尉受け入れの打診が来ているので、陸軍としては異存がないどころか大歓迎だ」
「これは大尉が実力と人柄で勝ち取った評価じゃな」
派遣先からの評価は彼のスキルは関係ない。全て大尉が努力して得た能力によるものだ。
「なので、もし近衛の話を断ったとしても引く手は数多なので心配は要らない。だが、大尉のスキルを活かせるのは近衛だという判断なのだ」
「出来れば妾のダンジョン攻略に同行して欲しかったのじゃがな」
「欲しかった・・・その選択は無いという事ですか?」
苦笑しながら呟いた言葉を聞き逃さなかった大尉が質問してきた。残念ながら、現状それは難しいのだ。
「妾の攻略に同行するならば、長時間迷い家にて待機する事を強いられるのじゃ。魂の傷が癒えておらぬ大尉には耐えられぬじゃろう」
それに、最奥まで到達した暁には思金の命神様にお出まし願わなければならない。まだ神気への耐性もなく魂に傷がある石川大尉が掛け値なしの神様の気を浴びたら無事では済まないだろう。彼の協力が欲しいというのが本音だが、それは最低でも彼の魂が完治した後でなければならない。
「最後に、ニコライ皇帝陛下をお守りする近衛の創設という事情がある。現在ニコライ陛下は迎賓館と玉藻様の迷い家にて生活なされているが、今後公務が増える事になる。その際ニコライ皇帝陛下をお守りする専用の部隊が必要となるのだ。大尉はその候補という訳だ」
「朕とアナスタシアの危機を救ってくれた大尉なら信用出来る。引き受けてくれぬか?」
「今上陛下と皇帝陛下からの身に余るお言葉、臣は生涯忘れませぬ。非力なる身ではありますが、この全身全霊をもちまして陛下方の御身をお守り致します」
両陛下の説得にて石川大尉は近衛となる事を受諾した。まあ、この世界に二人しか存在しない帝位保持者から請われたら断りにくいよな。
「重畳、重畳。だが、大尉が公の場に出ればマスコミに追われる事となろう」
「そうですな。大尉をマスコミから隠す為にも、ほとぼりが冷めるまで特務に就いてもらいましょう」
こうして石川大尉は陸軍近衛師団に配属となる事が決定したが、近衛として任に就くのは少し先になりそうだ。今上陛下と関中佐はその間の事も想定しているみたいだけど、大尉は何をやらされるのだろうか。




