第八百四十九話
「おっ、出てきたぞ!」
「おい、中はどうなっていたんだ!勿体振っていないで教えろ!」
迷い家から出ると、先に出ていた某テレビ局のクルーが他の局の連中に囲まれていた。続いて出てきた陛下や侍従長さん、関中佐が汚い物を見るような目で見ている事に気付いていないのかね。
「神使様、あいつらここが何処だか忘れてませんか?」
「恐らく大尉の推測は正しいじゃろう。ぽっと出神使の妾に対する不敬はまだしも、今上陛下の御前でこれとは・・・あ奴ら、本当に帝国臣民なのか疑わしいのぅ」
いきなり出てきた神使の俺に敬意を払えないというのはまだ分からなくもないが、長年帝国を導いてきた今上陛下への不敬は理解出来ない。
「侍従長、これが選ばれた報道員の姿か?」
「報道各社並びに総務省には厳正な調査を入れるべきでありますな」
彼らに聞こえる声量での会話で俺達に気付いたマスゴミ達が頭を下げるがもう遅い。どこぞの世界のネット小説よろしくパーティー(業界)から追放されるだろうけど、小説のような成り上がりは出来ないだろうな。
「本日の式典はこれまでとする。皆の者、大義であった。関中佐と石川大尉は同行するように」
今上陛下が受勲式の終わりを告げ、二人の軍人に同行するよう命じた。俺達はマスコミを残して初めに出てきた扉から退室した。
「陛下、念の為診察させていただきます」
隣の部屋では万が一の事態に備えて両親と舞が待機していたのだ。呪いのような目に見えない攻撃を受けた際にすぐ原因を特定する為だ。
「呪詛系や精神操作系の症状もありません。念の為全員確認しましょう」
陛下の診察を終えた父さんはニックとアーシャ、関中佐と石川大尉も診察して異常が無い事を確認した。石川大尉はまだ魂が完治していないそうだが、攻撃された痕跡は無いようだ。
「優も異常無し、と。石川大尉、迷い家で体調に変化はあったかな?」
「いえ、特に異常は出ませんでした。もう大丈夫です」
「石川大尉よ、ここに居る面々の前で畏まる必要はない。普通に話すがよい」
陛下からの無茶振りに、石川大尉は救いを求める子犬のような目で関中佐を見る。しかし、残念ながら彼が望む救いの言葉が投げかけられる事はなかった。
「大尉、玉藻様と関わる以上こうなるのは必然だ。大丈夫、じきに慣れる・・・」
何故か俺のせいになっているが、それは冤罪だと主張したい。俺は干し柿や干し芋の差し入れをするくらいしかしていないぞ。
「陛下、あまりお時間がありませぬ。本題に入られた方が宜しいかと」
「そうだな。石川大尉、君は近衛になるつもりはないか?」
「こ、近衛で御座いますか?私のようなハズレスキル持ちが、近衛に・・・」
皇族の方々をお守りする近衛師団は花形中の花形である。入隊出来るのは選ばれたエリートのみであり、家柄は勿論所有するスキルも厳選された者のみしか入れないのだ。
突然提示された選択に戸惑う石川大尉。彼はどんな選択をするだろうか。




