第八百五十二話
軍の次に混乱した組織、それはマスコミだった。陛下の発言を受けて総務省が重い腰を上げたのだ。と言ってもその内容は殆どが注意や勧告という軽い物だった。
総務省もマスコミも変わらないか、と思われたが今回は違った。総務省とマスコミ各社から多数の逮捕者が続出したのだ。
警視庁と各地の県警による一斉検挙。その罪状は贈賄と収賄、業務上横領となっていた。発表された内容に多くの臣民は「さもありなん」と納得していた。
この大規模な逮捕劇の直後、総務省はマスコミの報道姿勢に対して厳しい処分を行う事を表明した。逮捕を免れた職員達がマスコミに忖度して賄賂を受け取っていると疑われる事を恐れたのだろう。
対するマスコミ側もそれに抗議する事なく処分を粛々と受諾した。これまた残った者達が賄賂を送っていると疑われる事を嫌ったと思われる。
受勲式後の報道はほぼダンジョンと俺に関する話題となり、石川大尉の身分詐称問題は綺麗さっぱり報じられなくなっていた。
なにせ自分達の身内が大量に逮捕される原因を作ったネタである。掘り返せばそれも掘り返される事になる為報じない。多くの逮捕者を出そうともマスコミの体質は変わらない事を如実に示していた。
変わらないのは某テレビ局も同じであった。迷い家に招かれた唯一のあの局は、特ダネを掴んだにも関わらず普通にタクシーを乗り継ぐ番組を放送していた。
ダンジョン制覇や迷い家のニュースを報じる事は行われたが、定時のニュースにおける一つの内容として簡潔かつ的確に報じられたのだ。
他社の各局が自称ダンジョン専門家を名乗る輩を出した特番を組んでいたのと大違いだ。ダンジョンを制覇したという事実を針小棒大に膨れ上がらせ、俺に対する賛辞を只管流していた。
これまでの取材態度とのあまりのギャップに背筋がむず痒くなる程だった。そして、それは某テレビ局がニュースで報じた内容により更に加速する。
ダンジョン制覇により潜る階層を選択し、地上から直接深い階層に行く事が可能となる。それは世間に対して大きなインパクトを与え、各局の報道合戦が再度過熱した。
「ここまでぶれないって、尊敬したくなるわね」
「迷い家で撮影した内容流すだけでかなりの視聴率を取れるだろうに・・・」
どこのチャンネルも俺に関する内容しか放送していない為、俺と舞は例のチャンネルを視聴している。画面の中では芸人が電動バイクで定められた目的地目指してゲストと共に走っていた。
「また俺への注目度が上がったけど、石川大尉から目を逸らすという目的は達したみたいだし御の字か」
「そうだね。ところでお兄ちゃん、新しく発売されたブラシを買ったから試させてくれる?」
いつの間にかブラシを手にした舞がじっと俺を見る。それを何に使うのかは考えずとも分かっている。
「舞ちゃん、抜けがけはダメだよ!」
「ごめんごめん、アーシャちゃん。ついうっかりしちゃった」
バーン!という擬音がしそうな勢いで開かれた扉から、ブラシを持ったアーシャが乱入してきた。そして始まる尻尾のお手入れ。
外の喧騒と関係なく、ここにはいつもと変わらない日常があるのだった。




