第八百四十三話
「東京市役所への就職を偽装に使うのは分かるとして、何故監査部なんて部署で海外に派遣された事にしたのかな。不自然に思えるのだが」
「悲しい事に、アジア諸国では汚職や賄賂の収受が蔓延っているのです。現地でそれを取り締まる役職を設けても、その役職の者が賄賂を受け取るという始末で・・・」
「なので賄賂に応じないだろう外部の者に委託するという仕組みになったらしい。帝国でもそのような不埒な輩が居ないとは言わないが、欧州と比べてもかなり少ないようだからな」
俺が疑問に感じた事を父さんも感じたらしく、その理由を聞いてくれた。前世でも途上国では公的手続きに賄賂が横行していると聞いた事があったので納得してしまった。
アジアの国々が日本に監査官の派遣を依頼する時仲介するのは海軍になる為、海軍は東京市役所に顔が利くそうだ。
「それはそうとして中佐さん、こいつらどうにかなりませんか?」
「石川大尉は私達を救ってくれた恩人と言えます。その彼を苦しめていた者達がのうのうと日の目を浴びているのは許容出来ません」
テレビの中で得意げに語る自称同級生に敵意を向ける舞とアーシャ。ニックもテレビ画面を渋い顔で睨んでいる。
「そうですね・・・致命的な失言もしてくれましたし、マスコミ共々叩く良い機会でしょう。宮内省と相談する必要はありますが、あそこも無礼な記者には憤っていましたから」
関中佐は誰かに電話すると打ち合わせをするからと退室していった。内容までは聞こえなかったが、退室する時中佐が嬉しそうな表情だったので悪いようにはならないだろう。
翌日、今回の件を解決に導いた海軍大尉への論功を宮内省の主催により行うとの告知が出された。この報に世間は盛り上がり、自称友人や自称親族達の露出も増える事になった。
マスコミは挙ってこのニュースを取り上げ、しつこいくらいに報道を繰り返した。論功には彼の友人や親族が招待され、彼らを見いだした報道機関には特別に近い場所での取材を許可するとのお達しがあったからだ。
テレビ局は一局を除いて連日事件を振り返る特番を組み、自社が抱えた自称友人や自称親族を出演させて石川大尉の人柄を偲ばせる逸話を披露させた。
「中佐さん、こいつらの株上がっていませんか?」
「舞さん、ダメージというのはただ落とすより上げてから落とした方が大きくなるのですよ」
テレビ画面の中で有頂天になっている者達を見て苦い顔をする舞に関中佐が諭す。落ちた幅が大きい程絶望は深くなるので、上げるだけ上げてから叩き落とす方がより絶望は深くなる。
「彼らは皇居にて行われる式典に参加できると舞い上がっているでしょう。しかしそれは、今上陛下の目の前で断罪されるという地獄への招待状なのです」
関中佐、まさか今上陛下まで断罪劇に巻き込むつもりなのか。なんて畏れ多い事をしたのか。よく宮内省が許可したな。
いや、今上陛下は結構お茶目な一面もあるからな。断罪の事を聞いたら一枚噛ませろとノリノリで参加したかもしれない。
今上陛下「こんな面白そうなイベント、参加せずにいられぬよ」




