第八百四十二話
夕方、仕事や学校から帰ってきたうちの家族やニックとアーシャも加わってマスコミの報道合戦を見る。海軍や宮内省との打ち合わせを終えた関中佐も同席している。
「大尉、こいつは本物なのか?」
「こんな親戚、居たような気もするのですが覚えていないですね」
画面の中では自称石川大尉の親戚が石川大尉の幼少の頃の思い出を語っている。戸籍上は親族らしいのだが、特に仲が良かった訳では無く交流も薄かったようだ。
別のチャンネルを見ると自称石川大尉の親友が中学時代に如何に仲が良かったかをまくし立てていた。こいつはかなり自己顕示欲が強そうだ。
「この人達、何で今頃出てきたのかしら。事件から間が空いてたわよね」
「舞さん、それは多分確証が持てなかったのかと」
舞の疑問に石川大尉が苦笑しながら答える。俺も石川大尉の意見が正しいと思う。俺が彼の立場でも同一人物だと即断出来ないだろう。
画面に映る自称石川大尉の中学時代の同級生は、三十近くのオッサンなのだ。前髪の生え際は後退する気配が表れており、生え際がM字になっている。
それに比べて石川大尉は士官候補生に紛れていた事から分かるように、高校生だと言われても疑問を抱かない容姿をしている。
「若さを保つ秘訣のような物があるのかしら?」
「特に何かをやった訳では無いのですけどね。両親は普通なので、何故私だけ成長しないのか分からないのです」
三十が近い年齢にも関わらず十代後半で通る石川大尉の秘訣を聞き出そうとする母さん。やはり女性はその辺りに敏か・・・
「優ちゃん、何か不穏な事を考えていないかしら?」
「そ、そんな事はないよ。母さんはまだ若いなって思っただけだよ」
今、本能が全力で危機を訴えてきた。三十四階層で大亀と対峙した時より危なかったかもしれない。
「大尉、海軍にも確認はしてきたが君は江田島を卒業した訳では無いのだな」
「はい、私はスキルを授かった後海軍に勧誘され中学卒業後海南島に渡りました。そこに海軍諜報機関の養成学校があったのです」
関中佐の問いに淀みなく答える石川大尉。中佐は海軍から全て聞いているから問題ないとの判断なのだろうけど、この場には一般人である母さんも居るのだが良いのだろうか。
俺は関中佐の部下だし、父さんも陸軍の軍医だから関係者だ。ニックとアーシャは軍の関係者ではないけれど、まあ、高貴な御方なのでセーフという事で。
舞はアーシャの側近で護衛だから一般人とは言えないとして、母さんは父さんの助手ではあるが軍の関係者かと問われると微妙な立場と言える。
「じゃあ、海軍士官学校の入学時と卒業時にお祝いをしようとしたけど断られたという証言は・・・」
「恐らく嘘ですね。大体、私は中学卒業後東京市役所に就職し監査部からチェンマイに派遣されていた事になっています。両親ですら私が海南島で訓練を受けた事を知らされていない筈です」
何故にタイのチェンマイなのかと疑問に思ったら、チェンマイに機関の支部があるかららしい。東京市役所を使って偽装していたり、鳳機関って思ったより力がある組織なのかな。




