第八百四十一話
石川大尉が迎賓館に滞在する事となった翌日。俺は石川大尉と並んで過熱する報道をチェックしていた。
「辻谷と名乗っていた候補生は依然迎賓館に閉じこもっており・・・」
「こちら現場です。今日も候補生や神使様に動きはありません。現場の記者一同による連名で取材を申し込むも返答はなく・・・」
海軍の艦艇が民間人の乗った船舶を人質としロシア帝国皇帝陛下と皇女殿下の身柄を要求するという前代未聞の大事件。それを解決した陸軍士官候補生の身分に関するスキャンダル。いかにも数字が取れそうな話題に食いつかないマスコミなんて居るはずも・・・一社を除いていないのであった。
「そういえば大尉、ご家族は?もし身元がバレたらご家族にも取材が殺到しますよ」
「両親は健在な筈ですが・・・海軍が隠蔽しているので私の情報は漏れないと思います」
石川大尉が所属している鳳機関は、陸軍情報部のような表の機関ではないらしい。なので身元の隠蔽は念入りに成されているとの事だ。
簡易な調査とはいえ、陸軍士官学校の調査を騙した隠蔽だ。そう簡単に身元が割れる事はないだろう。と言うのは素人考えだ。
「SNSの特定班は侮れませんからね・・・と言っている側から特定されましたよ」
「なっ、どうやって・・・ああ、あの連中からか」
石川大尉はスキルを授かった際に使えないスキルだといじめを受けたそうだ。本来個人情報なので自分から言わない限り同級生に漏れる事は無い筈なのだが、有力者やその親族に阿る不届き者は何処にでも居るものだ。
「顔とスキルが出ていますからね。いじめをしていた者達が思い出したのでしょう」
何も分からない状態から身元を特定するのは難しいが、石川大尉は動物を召喚するスキルである事と顔がマスコミにより中継されていた。
それを見て思い出した同級生が声を上げたのだろう。命を賭けて民間人を救った英雄と同窓だったなんて、自己顕示欲が強い者には美味しいネタだ。
俺はメールで関中佐に石川大尉の身元がバレた事、ご両親が健在らしいので保護する必要があるかもしれない事を伝えた。
中佐からの返信には大尉のご両親については海軍から情報を取っていつでも保護できるように手配してある事、すぐに保護するように指示を出す事が書かれていた。
「ご両親はすぐに保護されるそうです」
「ありがとうございます。まさか、こんな大ごとになろうとは・・・」
大尉は凹んでいるが、大尉が取った行動は最善に近いと思う。少なくとも俺にはあれ以上の良策が思いつかない。
「身元が割れた事で報道合戦が白熱しそうですね」
「普通の海軍大尉だった筈なのに、どうしてこうなった・・・」
石川大尉、裏の特務機関の人間は普通の海軍大尉とは言えないと思いますよ。とツッコミを入れたくなるが、そこは空気を読んで沈黙するのであった。
そんな石川大尉を他所に、SNSでは自称石川大尉の幼馴染や自称石川大尉の親友が注目を集めるのだった。




