第八百三十九話
車の手配が出来たので迎賓館に移動する事になったのだが、問題は門前に詰めているマスコミ達だ。車内に石川大尉が居ると知られれば囲まれて動けなくなる事は必定。
「迷い家に匿えば楽なのじゃがな」
「神使様の迷い家がいかに便利かを痛感させられますな」
石川大尉を迷い家に入れて容態が悪化するのは避けたい。よって俺が囮となりマスコミを引きつける作戦に出る事となった。
「おっ、神使様だっ!」
「神使様、今回の一件について何か一言お願いします!」
「神使様、件の候補生は海軍が送り込んだ間諜との説がありますが・・・」
俺を見たマスコミは予想した通りの反応を示し殺到してきた。しかし俺は何も答えずに空歩を使って空を駆ける。しかし全力は出さずにマスコミ達が追ってこられる程度に手を抜いていた。
「逃げたぞ、追え、追うんだ!」
「おい、そっちは念の為残れ。俺達が神使様を追う!」
マスコミは俺を追う者と石川大尉を待つ者に分かれたようだ。俺を追ってきたのは六割から七割といったところか。
俺は皇居を時計回りに回るように走る。東京駅辺りから南下し走った。帝都タワーを右手に眺め日の出桟橋から海に出る。
「ああっ、海上に出た!」
「船だ、船を探せ!」
埋め立て地、前世のお台場に渡る道が無い訳では無いが、遠回りする必要がある為そこを通っては俺を見失ってしまう。そこでマスコミは船を使って追う班と橋を渡って追いかける班に分かれる動きを見せた。
レインボーブリッジ方面から渡る者と豊洲を経由する者、船で渡る者の三方面に分かれ包囲するように追跡するようだ。
海上を走っているとスマホからメールが届いたのを知らせる着信音が鳴った。確認すると関中佐からで、マスコミを撒いて迎賓館に入る事が出来たそうだ。
「逃げずに取材を受けて下さい!」
「臣民の知る権利を阻害するおつもりですか!」
上手く浅草からお台場に向かう定期船に乗れたマスコミが喚いているが、それに答えてやる義理はない。これ以上付き合う理由も無くなったので完全に撒いてあげよう。
俺は踵を返し来た方向、日の出桟橋に向かって走り出す。しかしマスコミが乗っている定期船はUターンなどする筈が無い。
「なっ、戻るだと?」
「おい、船を戻せ!」
「無茶言わないで下さいよ。この船はあんたらの貸し切りじゃないんだ。戻るなんて出来る筈が無いだろう」
船上のマスコミは船長と言い争っているが、マスコミの我儘で引き返すなんて事は無いだろう。一部の者達はスマホで通話しているようだが、橋を使った班に連絡していると思われる。
しかしレインボーブリッジを使っている班は渡りきらなければ戻る事は出来ないだろう。最も早く引き返せるのは豊洲の班か。
しかし彼等も俺が高度を上げて海上から視認出来なくすれば何処に向かったのかを知る術はない。俺が何処に向かっていたのかを知らない以上、追いようがないのだ。
海上を北上した俺は浜離宮で北西に折れ迎賓館に着地した。マスコミを撒く手間と時間、どうにか無くす事は出来ないかな。




