第八百三十七話
ダンジョン攻略と聞いて一瞬表情を曇らせる石川大尉。俺以外はあの練馬の訓練の後も実習で補給隊に参加させられたそうなので、その時の事を思い出したのだろう。
「石川大尉、そなたが思うておるダンジョン攻略とは別物じゃからな。そう身構えるでない」
「玉藻様、実際に体験させた方がよろしいのでは?」
俺と共にダンジョンに潜るなら迷い家を使う事になる。今ここで披露しても問題ないだろう。という訳で迷い家への入り口を開いてみせた。
「光の壁が・・・これは神使様のスキルでしょうか」
「うむ、これが宇迦之御魂神様よりダンジョン攻略の為に授かりしスキルじゃ。この中には妾が許可した者のみ入る事が出来るのじゃよ」
まずは関中佐に入ってもらい、次いで石川大尉にも試させる。関中佐は光の扉を抜けて姿が消えたが、石川大尉は指先すらも入らない。
「中佐殿が消えた・・・固い壁なのに!」
「人であろうとモンスターであろうと、妾の許し無しには入る事が叶わぬ絶対の領域じゃよ。大尉も入ってみるがよい」
「うっ、うわあっ!」
運悪く力を入れて入り口を押していたタイミングで許可を出してしまった為、いきなり支えを失った大尉の身体は勢いよく迷い家の中に転がり込んだ。
「すまぬ、少々タイミングが悪かったようじゃな。石川大尉、ここが迷い家じゃ」
「えっ、あれ?建物内に山?海まである?」
「大尉、ここは神使様の空間だ。もう一つの世界のような物なのだよ」
石川大尉も先人達と同様に迷い家の世界に驚き放心している。数分して再起動した大尉に関中佐が説明を行う。
「神使様はこの空間をいつでも展開する事が出来る。試したように神使様の許可なき者は入れない為、ダンジョンの中であろうとも安全に休息する事が可能だ」
「果樹園や畑では無限に収穫が可能じゃ。海や川で魚も釣れる上、山の幸も取り放題じゃよ。外部からの補給無しでここで生活する事も可能じゃな」
「それに、ここに置いた荷物は保持される。ダンジョンでの戦利品を持ち込めばいくらでも地上に持ち帰れるのだ。勿論、地上からダンジョンに持ち込む事も出来る」
あまりの破格な性能に再度硬直する石川大尉。説明を受けた者は殆どが同じ反応をするのでこちらも慣れてしまった。
「こんなスキルがあるなんて・・・これならダンジョンの最奥に辿り着く事も出来るのでは?」
「大尉、その通りだ。神使様は昨年末にダンジョンの完全攻略という偉業を成し遂げられた」
「えっ、ほ、本当に完全攻略されたのですか!」
自身が口にした内容が達成されていたと聞いて三度固まる石川大尉。まさか本当に攻略されているとは夢にも思わなかっただろうな。
「中佐、構わぬのか?」
「はい、陸軍は宮内省と相談の上SNSの話題を上書きする為に公表する事を決定しました。論功行賞の際に発表し、石川大尉の件を吹き飛ばす予定です」
派手な論功行賞で世間の耳目を集めて、そこでダンジョン完全攻略と階層選択という爆弾を放り込むか。そこまでされたら石川大尉のスパイ疑惑なんて吹き飛ぶよね。




