第八百三十六話
その日の昼近く、石川大尉が目覚めたとの報告が入った。本人に海軍からの情報が正しいかを確認したところ、間違いないと本人の口から言質を取れたとの報告も入った。
広島の陸軍病院を脱出した石川大尉は第五師団に守られて岡山に移動。そこから空路で横田基地に到着、更に小型機に乗り換えて練馬基地に飛んだそうだ。
「滝本中尉殿!いえ、神使様。身分を偽り神使様を謀った事誠に申し訳ありません。この上は如何なる処罰も受ける覚悟に御座います!」
関中佐と共に石川大尉を訪ねた俺は、初手土下座という思いがけない先制攻撃を食らったのだった。
「それは海軍の指示で石川大尉が望んで行った訳では無いでしょう。それに、俺も神の使いという事を隠していたからお相子です」
「いえ、一介の大尉を謀るのと宇迦之御魂神様の御使い様を謀るのではわけが違います!」
頑として自らの罪を主張する石川大尉。椅子に座るよう勧めるが、石川大尉は土下座状態から動こうとしない。
「滝本中尉の姿ではなく、玉藻様の姿の方が説得力があるのでは?」
「そうですね・・・神の威を借る狐のようで気が進まぬが、話を進めるには良策じゃな。石川大尉、贖罪としてお主のスキルに関して聞かせてくれぬか?」
本来スキルに関する内容は進んで他言する物ではない。それを言わせる事により石川大尉の罪の意識を薄くすると同時に本当のスキルを教えて貰おうという算段だ。
「私のスキルは生き物の召喚です。小さな状態で召喚したり動かぬ置物のような状態での召喚も出来ますが、本来は等身大で動く状態での召喚を行うスキルです」
一気に説明をした石川大尉はキクイタダキという小鳥を召喚してみせた。キクイタダキは数回床で跳ねた後飛び上がり関中佐の肩に止まり羽繕いを始めた。
「呼び出した生き物は命じた通りの行動を行います。これまではこの能力で情報の伝達を行なっていました」
石川大尉はキクイタダキを消して九官鳥を召喚した。そして小声で呟くと九官鳥は飛んで俺の肩に止まる。
「カンダイナルシンシサマニカンシャトチュウセイヲ」
「成る程、これならばスマホなどの通信を確認していても捉える事が出来ない。よく考えたものだ」
俺の肩で言葉を紡いだ九官鳥に関中佐が感心し関心を示した。しかし俺は別の事を考えていた。
「大尉、この九官鳥は自らが見た事を話す事は出来るのかえ?飛ばして人や物を探させ、結果を聞く事は?」
「九官鳥などの話せる鳥ならば可能です。しかし生み出した鳥が生還出来なかった場合、再召喚しても別個体なので偵察させた内容は失われます」
それでも十分に有用だ。ダンジョンの草原や荒野といった階層ならば、次の階層への渦を探させる事が出来そうだ。
アーシャが居ればその必要は無いのだが、皇女殿下であるアーシャを毎回ダンジョン探索に付き合わせる訳にはいかない。
「関中佐、石川大尉の身柄は陸軍で確保する必要がありそうじゃ」
「神使様の望みのままに」
この先ダンジョンを踏破して階層選択が出来るようにしていく事になるだろう。その時石川大尉のスキルは時短に大きく貢献してくれる筈だ。石川大尉、逃さないよ。




