表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
30/66

『店主』

生贄ダンジョン境界4F


『ダンジョンショップ』

 不思議なアイテムが、外で手に入れるよりも遥かに安価で購入できてしまう店。


 そこは知るものぞ知る特別な場所。

 言ってしまえば、そもそもその辺に沸くような木端ダンジョンに現れることがない場所だ。


 ニシキの村周辺に現れるダンジョンでもそうだし、普通に生きる人間が見つけることが出来ないダンジョンにしか生成されない特別な場所なのだ。

 テフラがおとぎ話だと思っていても仕方のない理由。


 見つかるダンジョンの例を挙げるとするならば。


 例えば女神が見守ったと言われる王国にある選ばれたものしか入れないダンジョン。

 例えば月神に愛された一族の古よりひた隠しにしている満月にしか開かないダンジョン。

 例えば世界の端にあると言われる神々が下界を覗き込むための塔型ダンジョン。


 それぞれが実力のあるものしか入れず、そして栄光を手にするための特別な劇場。

 しかも『ダンジョンショップ』がその階層に生成されるかどうかも、ダンジョンに挑んだ人間の運試し。


 逆説的に言ってしまうと、『ダンジョンショップ』の現れるダンジョンは。

 神が関わり、いつだって特別な物語が紡がれてきた娯楽劇場。


 当然。

 そこの管理をする店主は。

 ────神に管理を任された超常の者である。



 ◇



 テフラは『ダンジョンショップ』の中で商品の前、ショーケースに張り付いてソレをキラキラした目で見ていた。


 でっかくてキラキラして格好いい白金大剣、透き通る美しい二対のクリスタルレイピア、無駄に洗練された無駄のないカタナなど沢山の装備がそこには飾ってあった。

 青年の心をくすぐる特別な逸品。一生居れる、テフラはそう思った。

 そんな童心に帰ったテフラを、呆れた様子のハピネスがコツコツつつく。


「少年、ここは休憩階層じゃないからね? 忘れないようにね、少年!」

「はっ!? 『掃除人』が来る……!」


 すぐさま我に帰るテフラであったが、やはり強力そうな武器には目が惹かれるようだ。

 続け様にハピネスがため息を付いて、翼でソレを示す。


「少年、読めるかい? 君が見ている武器達の横に書いてある数字」

「……おう。ゼロがいっぱいだな」

「手が出せるのかい?」


 うがー! と指摘されたテフラは頭を掻きむしった。


「無理! くそー、今だけ億万長者になりたいぜ!」

「ちなみに、少年いくら持ってきてるんだい?」

「…………そもそもダンジョンに財布を持ってくると思うか?」


 ソレは飾られている武器の値段。

 沢山のゼロがついており、今のテフラには手が届かないトンデモ武器達だった。

 テフラは、財布は持って来てないとハピネスに首を振った。そもそもテフラの使っている財布に入るお金の量も高が知れている。


 ショーケースに入った武器以外にも、不思議な杖や不思議な本。

 他にも大容量入る鞄や謎の薬なども置いてある。

 この辺りは手にとって確認しやすいようになのか、手で掴めるような場所に置かれている。


 手に入れられれば、この先楽になること間違いなしなのだが……。

 テフラは頭を掻いて悩む。


 ダンジョンショップでは、ダンジョンクレジット『dc』と呼ばれるこの世界で流通されている通貨が必要になる。

 そんなダンジョンショップで使えるお金が流通している理由は、『ダンジョンショップ』の出現するダンジョンを囲っている権力者たちの都合であったりもするのだがそこは割愛しておこう。


 一文なしのテフラは、天を仰いで唸った。

 色々なアイテムがあるのに一切手を出せないのが悔しい。

 だが、どのみち購入することは出来ないのだから、先に進むべきだと考える。

 天井はまだまだ明るいが、時間経過で『掃除人』が現れることだけは間違いがないのだから。


 そんなテフラに。


「うふふ。お客様、お持ちのアイテムを売り払ってdcに変えたりしませんかぁ? 買取、査定しちゃいますよぉ?」

「ほわぁああ!? お姉さん、気配ないの怖いんですけど!?」


 吃驚したテフラは本気で飛び跳ねる。

 後ろにきゅうり置かれた時の猫くらい飛び跳ねる。ハピネスが割と洒落にならずに肩から射出されそうになるが、必死でしがみついた。

 糸目バニーガールの店主が、気配なく背中に接近していたのだ。

 先ほど自分の格好を変態的と言われた意趣返しだったりするのだが、テフラは気がつかない。

 慌ててテフラは糸目バニーガールを振り返って、盾を壁にするようにして対峙する。


 そしてさり気なく店主の全身を観察した。

 まぁすぐにバレるのだが。


「うふふ、そんなに見つめちゃ嫌ですよぉ。お客さぁん、お金取りますよぉ?」

「……少年」

「な、ちげぇーってハピネス!? マジでこの人怖いんだって……!」


 テフラが糸目バニーガールの全身を見たのは、その扇情的な格好を脳裏に収める色目的ではない。

 いくらアイテムに集中していたとはいえ、ここはダンジョンだしモンスターが入ってくる可能性もあるだろうと思って警戒はしていたのだ。

 なのに声をかけられるまで全然気がつけない。

 目に良い薬まで飲んで洞察力が上がっているテフラが、糸目バニーガールがいつ動いてここまで来たのか本当に気がつけなかったのだ。


 見た目はただのエッ……お姉さんなのに、テフラは自分よりもはるかに格上の存在であることを理解して、一筋冷や汗をたらりと流す。

 その実力差に気がついてないハピネスは、じっとりとした目で飛び跳ねたテフラを見ている。純情だなぁと思っている目。

 そんなハピネスが大きく首を縦に振って、糸目バニーガールに聞き返す。


「私があの部屋で見ていた時は、この人に不思議なアイテムを売ってdcにしていたよ少年! 店主、そうだろう?」

「ええ、そうですねぇ。うふふ」

「……けど、そのまま金もらっても嵩張るだけだぜ?」

「おやまぁ、お客様。お財布をお持ちではないんですかぁ? ……このダンジョンはそういう方が多いですねぇ」


 テフラはポンポンと自分の鞄を叩く。

 dcとはコインの形をしている。

 なので量があると重くなるし、当然嵩張るのだ。

 テフラは遭遇するかわからない『ダンジョンショップ』のために、手持ちのアイテムを減らしてまで確保したくはない。


 そのテフラの言葉に糸目バニーガールが、んっ……としっとりとする声を出しながら、ゴソゴソと大きな胸元の谷間を漁り始めた。


 再びテフラが顔を真っ赤にして、顔面を横に背ける。一瞬の早業。

 そしてジト目のハピネスと目と目があった。そっちの肩にいるんだから当然である。

 テフラは何も言えなかった……。

 ハピネスも何も言わなかった。


 そんなこんなのうちに、大きな胸の間から何かを取り出した糸目バニーガール。

 彼女は、まだ見つめあって無言のやりとりをしているテフラとハピネスの間にあるものをぶら下げた。


 ソレは、デフォルメされたウサギのアップリケが貼り付けられたガマグチ財布であった。


「お客さぁん、これはですねぇ。dcがいっぱい入るお財布ですよぉ。これ一つでいっぱい入るから、嵩張らなくて重宝されてるんですぅ」


 dcしか入りませんけどね? と言って含み笑いをする糸目バニーガール。

 首を傾げるテフラの肩で、ウサちゃんガマグチに見覚えがあったハピネスが、パタパタと大きく翼をはためかせる。


「あ、これも見たことがあるよ少年! これを貰ってた人がいたのを見たことがあるんだ!」

「へぇ、貰えるのか! ありがとうエッ……お姉さん!」

「……少年。────少年っ!?」


 目の前にあるウサちゃんガマ口をお礼を言いながら、テフラが受け取ろうとした瞬間。


 ────ぞくり。


 全身に冷や汗をかいたテフラは大きく後ろに飛び下がって、糸目バニーガールから距離を取る。




「貰う、ですかぁ……?」




 糸目バニーガール。

 いや、店主が目を開いた。


 ジリジリと、テフラは唾を呑みながら後ろへ下がる。とっくに武器は構えていた。

 ソレに気がついたハピネスが、わたわたと慌ててテフラのマフラーの下に潜り込む。

 とんでもないプレッシャーが目の前の女性から放たれ、テフラは全身が重く感じる。

 父のリーブでも、こんなプレッシャーを放ってきたことがない。いや、こんなプレッシャー人間に放てない。


 唯一、テフラの記憶で照合できるとすれば。

 あのダンジョンで追われた黒影の化け物や『掃除人』と同等の。


 いや、ソレらよりも。

 ────コイツは、ヤバい。


 店主を睨みつけるようにしながら、テフラは乾く口腔から声を発する。


 生き残るために高速で思考。

 決して、目の前の人の形をしたバケモノから目を逸らさない。


「……なにか勘に触ったかよ、店主さん」

「いえ、まだ何も」


 ですが。と言葉が続く。


「貴方は」


 にぃ、と開眼した店主が笑った。


 左腕の盾をゆっくりと下げて、テフラはベルトにある『吹き飛ばしワンド』に手を伸ばす。

 ソレを見ているが店主は動かない。

 ただただ、言葉を続ける。



「お客ですか?」



 それとも。



()()()()()()



 テフラ、瞬き。

 瞬間、端正な整った女の顔が目の前にある。


「────ぁ」


 額と額がくっつきそうな距離まで、一瞬で目の前に移動された。


 テフラの脳が追いつかない。

 斧を振るうまでに、脳が腕に信号を届けられない。

 店主の真紅の瞳が、テフラの灰瞳を覗く。

 縦に裂けた瞳孔が見つめてくる。それだけでテフラの体はピクリとも動けなくなる。


 店主の白く細い指が、反応出来ないテフラの胸にゆっくりと見せつけるように乗って、テフラの心臓を────。


「きゃ、くっ……!」


 テフラのマフラーの中から、凍りついた口を必死で動かした青い鳥がいた。


「おやぁ、そうでしたかぁ。うふふ」

「ゼッ、ヒュ……!?」


 ドサッ! ダンジョンショップの床の上に、胸を押さえて必死で呼吸を繰り返すテフラが座り込む。言葉を発したハピネスも限界だったのかマフラーからずり落ちて、テフラの足の間にぽてんと落ちた。


 二人とも、命に別状はない。

 ただ、死を感じて恐慌した体がいうことを聞いてくれなかった。


 その様子を離れた場所から、糸目のバニーガールがしっとりと妖艶な含み笑いをして見つめているのだった。


ブクマいいね評価等よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ