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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
31/66

生贄ダンジョン境界8

生贄ダンジョン境界4F


 汗だくのテフラは、座り込みながらもなんとか呼吸を整える。

 そんなテフラに声がかかった。


「当店ではこの部屋にあるモノ、その全てに値段が設定されていますぅ。なので『貰う』とか『盗む』とかこのうさ耳に聞こえてくると、どうしても過剰反応してしまうんですよねぇ」


 うふふ、と糸目バニーガールがニコニコと笑う。

 先ほどの、こちらを瞬殺しようとしてきた雰囲気は霧散していた。


 テフラはその様子に安堵して、さっさとここから逃げ出そうと思うが足が震えてまだ動かない。ついでにハピネスが気絶寸前だ。慌ててテフラは彼女を懐で守る。

 テフラを咄嗟の機転を効かせて守ってくれた彼女が、ダンジョンに食われたとあっては、テフラは嘆いても嘆ききれない。


 またこの店主の地雷を踏むのはごめんだ、とテフラは出来るだけ店主の勘に触らないように言葉を考え、乾いた唇を軽く湿らせ質問をする。

 テフラは脳筋気味ではあるが、相手の気に触ることを避ける良識はあった。

 恐る恐る言葉を選んでいく。


「……俺は、客だぜ。それを前提で質問させて欲しいんだけどさ、いいか?」

「ええ、構いませんよぉお客さん」

「何も買わずにこの店を出てもいいのか?」


 他に入場料とか会話料とか発生してないだろうな? とも思うが口に出さない。もしも、それいいですね! とか言われて採用されたら泣けてくるからだ。


「はい、当然ですよぉ。お客さんのお好みの商品がなかったというならば、こちらの手落ちですからねぇ」


 テフラは壁伝いに立ち上がる。大きく呼吸を繰り返して、心を落ち着けていく。

 もはや目の前にいる女の扇情的な見た目など気にならなくなってきていた。命の危険に晒されたばかりなので、それどころではないというべきか。


 何も買わずに出る、もしくは何か買って出るか、だ。

 出来るだけ商品には触れない方がいい、そう思って商品には触れない。

 もしも払えない場合、確実に先ほどのようにこの糸目バニーガールが殺しにくるからだ。


「ちなみにだけど、さっきのそのdcがいっぱい入る財布っていくらだ?」

「本来は10000dcとなっていますよぉ」

「高いッ!? ……本当に貰うとか言ってすいませんでした!!」 

「うふふ」


 テフラ、あまりの高い値段に白目を向いて謝罪。

 いや、これは殺しに来ても仕方ないんじゃないかとまで思ってきてしまった。

 それにクスクスと、糸目バニーガールは続ける。


「ただこのお財布、初回限定のお客様のみ1000dcで提示するようにしておりますぅ。うふふ、便利ですよぉ」


 たくさんお金を持ってきて頂かないといけませんからねぇ、と含み笑い。

 そして、むふふと口に手を当てて言葉を続ける。

 商人のとびっきりな営業スマイル。


「ただし初回限定、今回限定となっておりますぅ。次回からは十倍の値段ですよぉ?」

「今回限定……! 次欲しくなったら、絶対買えないよな……!」

「特別価格ですよぉ? 今回限りですよぉ?」


 残念ながらストッパーのハピネスは目を回してテフラの懐の中だ。

 テフラは限定という言葉の魔力にやられている。


 先ほどのような瞬間移動ではなく、ゆっくりテクテクと店主が近づいてくる。

 1000dcと言っても、一文なしのテフラにとっては高額だ。

 ちらりと、懐で朦朧としているハピネスを見る。

 欲求とせめぎ合う表情。


 そして。


「……とりあえず、売れる物の値段を査定してもらってからで」


 肩をすくめて。


「ついでにハピネスが休める場所ってある……りますか? あ、それもお金かかるか聞いていいですか?」

「うふふ、分かってきましたねぇ。サービスしておきますよ、お客さぁん?」


 と店主に対して、とってつけたような敬語で話をするのだった。



 ◇



 売れそうな物をカバンの中から漁り、慎重に差し出す。

 慎重にというのは、それが呪われたアイテムだからだ。


「お客さぁん、いいもの持ってるじゃないですかぁ」

「いいものなのか……?」

「うふふ、大人に人気なんですよぉ」

「???」


 テフラはぐぅぐぅ睡眠へと移行したハピネスをここは安全ですよ、と言われた椅子のある場所に安置して、糸目バニーガールと豪華なテーブルを挟んで会話をする。

 店主のプレッシャーは、ハピネスの鳥のハートには負担が大きすぎたようだ。


 テフラが気をつけて渡しているのは、『手錠の腕輪』呪い付きである。


 それは『パローレミングス』からドロップした鈍色の腕輪で、装備してしまうと腕輪と腕輪同士がくっ付いてしまうアイテムだった。

 それを喜色を浮かべて受け取る糸目バニーガール。格好も相まってどこか倒錯的な雰囲気を感じてしまうが、気のせいということにしておこう。


「状態もいいですし、これなら1500dcと言ったところですかね」

「そんなにっ!?」

「はい、さぁどうされます? お客さぁん」

「売ります売ります!」


 テフラがそう言った途端、豪華なテーブルの上にじゃらじゃらとdcが飛び出してくる。

 うおお、と仰反るテフラ。地味に、個人で持ったことがない量の金額で手が震える。

 そして、そっと自分の鞄を見た。


 やっぱ入らないわコレ、と。


 その様子に満足したのか、糸目バニーガールは対面で満足そうに頷く。そして、パチンと指を鳴らす。

 ウサちゃんガマグチが、ポテンとテフラの前に現れる。


「購入するなら、差額を引きますがぁ?」

「……お願いします」


 初めは買うか買わないか迷っていた。

 だが、これは一つのリスク回避だ。

 もしも、この店主に粗相をした場合、お金で解決を持ちかける一つのリスクヘッジ。

 そう考えると、この財布は持っていた方がいい気がするのだ。


 それに、一つテフラの頭の中に閃きが。


「その、お金がかかるなら答えなくていいんですけど」

「おやぁ、なんでしょう?」


 質量保存の法則を無視して、財布の中にじゃらじゃらと仕舞い込まれていくdcから視線を外して、テフラは言った。


「このダンジョンについて、聞けたりします? 情報ってやつです」

「…………ふふ、中々面白い子ねぇ」


 ぞくりとする真紅の瞳が覗かせた店主が、dcを仕舞い終えたガマグチをテフラに受け渡す。

 妖艶に店主は微笑むのだった。



 ◇



 財布を受け取り、話を終えテフラは店を出る。

 その様子はどこか真剣さを感じる表情だった。


「ありがとうございましたぁ。またお越しくださいねぇ」

「こちらこそ、ありがとうございました!」


『ダンジョンショップ』から出て、しっかりと頭を下げてお礼をいう。

 糸目バニーガールは軽く投げキッスで挨拶して、テフラはそれをドギマギしながら赤面して、しっかり目に焼き付けた。

 十六歳の男の子だから、仕方ないんだと自分に言い訳中である。


 名残惜しいが踵を返して、テフラはダンジョン探索に戻る。


 テフラの腰のベルトから、いくつか杖が消えていた。

 残っているのは『身代わりワンド』と『鈍足ワンド』だけだ。

 ついでに、財布の中身も軽い。


 とある情報の対価として、有金を全て差し出して聞ける分だけ聞いてみた。

 ただ、それはこのダンジョンのいわゆる『攻略情報』というものではなく、尾根の神様を助けるための障害などについてだ。


 未だ眠ったままのハピネスを懐で護り、『魔法の地図』を出してテフラは進んでいく。

 この階層に長居しすぎてしまったようだ。


 天井の灯りが少しずつ暗くなってきているのを感じる。 

 このままだと、夕暮れのような赤に染まって『掃除人』がやってくる時間になってしまう。


『魔法の地図』と『目に良い薬』の洞察力をフルに使って、出来るだけ敵を避けて階層を進んでいった。

 途中で宝箱もあったが、テフラは避ける。

 後ろ髪は引かれるが、余計なことをして眠ったままのハピネスを危険に晒したくない。


 上の階層にあったモンスターだらけの部屋や、罠だらけの部屋などはなく、一階層目の弓猿人とミミックに気をつければ大丈夫そうな階層。そう結論付けた頃、テフラは下に降りる階層を見つけた。

 ホッと胸を撫で下ろす。ある意味死にかけたが、この階層が一番有益な階層だったかもしれないとテフラは思った。


 出来ればこの階層でハピネスに目覚めてほしいテフラは、階段の上で目を覚さないハピネスに起きるように優しく声をかけながら『掃除人』が現れるまで、足踏み状態ではあったが待機する。

 当然ではあるが、階層で一番素早いモンスターの弓猿人が現れたならばすぐに降りる所存である。


 今までが今までだったので、階段の上でも徹底して警戒。

 常に『身代わりワンド』か『鈍足ワンド』が触れるようにしておく徹底ぶりだ。


 特に、この階層に降り立って目の当たりにした鳥籠型のモンスターが何をしてくるかわからないので、一番警戒をしているのだ。

 流石に『店主』ほどヤバい敵が出てくることはないだろうが、警戒しておいて損はないだろう。


 先ほど糸目バニーガールに聞いた限りでは、このダンジョンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……でも、今回までだ」


 ハピネスの寝顔を優しく撫でながらテフラが、明確な敵意を持って呟く。


「全部、俺の代で終わりだぜ。────『王様』」


 しばらく時間が経ち、天井が夕暮れのような黄昏色になった頃。

 ハピネスが、ゆっくりと目を開く。


 少しだけ会話をして、青年と青い鳥は次の階層へと進んでいくのだった。 



 ◇



『ダンジョンショップ』


 パチン、と扇情的な衣服に身を包んだ女が指を鳴らす。

 青年が随分と見つめていたショーケースやアイテム達がダンジョンの床の中へと、ゆっくりと消えていく。

 店の商品や家具などを片付けながら、このダンジョンの階段のある方を見つめ。


「それにしても、遊べそうな人間ねぇ」


 女は一言呟き。


「私もこの演目を楽しもうかしらね、うふふ。稼げそうだわぁ……」


 その言葉を最後に、一柱の神は含み笑いを浮かべてダンジョンの奥へと消えていった。


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