03 満月の夜
満月だぁ!
私はワクワクと高まる気持ちのまま、走っていた。
林を抜け、小さな草原にたどり着く。
キョロキョロと探すと、草原の小さな岩の上に小さな影がみえた。
「アロー!」
その小さな蛙をみつけると嬉しくて、アロー目指して岩にジャンプした。
「うわぁぁぁ!」
アローが慌てて岩から飛び降りる。
「なにするんだ!俺より何倍も体が大きいんだから、踏み潰されるとこだったじゃないか!」
そう怒られて、その通りだとしゅんとする。
私のしっぽがくるんと下に垂れた。
「…こめんなさい。アローが本当にいてくれて嬉しかったの。時間が経つにつれ、動物に変化するのなんてやっぱり私しかいないんじゃないか。私の妄想だったんじゃないかと不安になっちゃって。」
その言葉に、アローは口をパクパクとして、
「…もういいよ。俺も会えて嬉しかったから。」
その言葉に、私のお髭がピンッと張って、しっぽもパタパタ動く。
「良かったー」
ニコニコ言う私にアローは呆れたように、でも嬉しそうに見上げてきた。
それから私達は色々話をした。
アローに、本当は蛙(というか昆虫等全般)は怖いというと、ちょっと元気がなくなった。
「でも、アローの緑はとても綺麗ね。ピカピカだわ」
そう目を細めると、アローは照れたようにわらった。
「お前の毛並みもふわふわでいいな」
ふふふとそんな不思議な誉めあいっこをする。
自慢の毛並みを誉められて嬉しかったので、
「乗っていいよー」
といってみた。
アローは驚いたように私をみたけど、ちょっとニヤリとすると、
風を操って私の頭の上にちょこんと座った。
そーっと、アローが私のふわふわの毛に触れた。
「本当にフカフカだなー」
そんな声が頭の上から聞こえてきておかしくなる。
「はふん!」
アローが私の耳を触ったので、くすぐったくておかしな声が出る。アローが慌てて、
「悪い!痛かったか?」
と私の頭から飛び降りた。
「痛くないよー。お耳触られるとくすぐったくて!」
そんな私の言葉にアローはほっとした顔をした。
それからも、2週間に1度の楽しみは続いた。
最初は偉そうでムカつく蛙だと思っていたけど、話すととても楽しくていつも時間があっという間に過ぎる。
そして、いつもアローが先にきて待っててくれる。
「アローはここから近くに住んでるの?私も変化したら、急いで来てるのにいつもアローが先だもん。」
その言葉にやっぱりな。アローは呟いた。
「俺達は変化の時間が違うんだろう。最初はなかなか抜け出せず遅いのかとも思ったが、いつも23時過ぎだから薄々気づいていた。」
私は驚いた。
その可能性に思い至っていなかったのだ。
変化する動物の他、時間にも違いがあるとは思わなかった。
「俺は19時から4時だ」
「…私は23時から4時よ」
「じゃあ、いつもとても早くに来て待っててくれたの?」
私がきくと、ふと目をそらし、
「まぁな。特に2日目はなかなか来ないから、リリィは自分の妄想だったんじゃないかと思ってたよ。」
その言葉に、2回目に会ったのアローが、素直に会えて嬉しいと言ってくれた事を思い出した。
アローは、本当に来るのか?本当に変化する人間が自分以外にいたのか?私より不安な気持ちで待っていたのね。
その事実に思い至って胸が痛くなった。
「アロー。これからは先じゃなくていいわ。私は23時過ぎないとこれないもの。」
すると、アローはいや、といって、
「リリィはまだまだ幼いようだし、猫だけど、女の子だろ?危ないから先に待ってるよ」
そう優しく前足(手?)で撫でられた。
・・・まだまだ幼い?
「…アロー。私、先月で成人したんだけど。」
その言葉に、アローの目が見張られる。
「嘘だろう!10歳位かと思ってた。。」
ムカー!!レディになんて事を!
しっぽをバシバシして怒りを表す。
「あのねぇ。猫だからこんな言動だけど、人間の時は美少女でちゃーんとおしとやかな、態度を弁えた立派なレディなんだからね!」
私の言葉に、胡散臭そうにアローがみてくる。
ぐぬぬ。確かに、おしとやかは言い過ぎで、ユーリには、レディらしくない!と散々言われるけど。
それでも侯爵令嬢ですから!ちゃんとマナーやダンスも完璧だし、厳しい教育を受けているんだから!
「ふーんだ。次会う時には、今度のお城のパーティーでしっかりデビューした私の麗しい姿の話をしてあげるわ!」
そう胸を張ってアローを見ると、何故か黙るアローがいた。
「アロー?」
「次のお城のパーティーって、第一殿下の祝賀会か?」
「そうよ。知ってるの?あっ!アローも参加するの?」
私の言葉に、
「…俺は参加出来ない。」
その言葉にハッとする。
そうか。社交パーティーは、だいたい、18時から0時までだ。
私も早目にきりあげて帰らないといけないが、19時に蛙になってしまうアローでは参加は難しいだろう。
アローは多分、私より年上だろう。社交に出れないということは、貴族の繋がりを結べない。かなり不便で、辛いことだろう。
アローの事を思うと、辛くて、お耳もしっぽも垂れてしまう。
そんな私をみて、アローは少し笑った。
「リリィのそのしっぽはいいな。何を考えているのかまるわかりだ」
そう言うと、私のしっぽにそっと触れた。
「俺は必ずこの呪いをとく。だから大丈夫だ。」
そう決意を込めた目をしたアローがはっきりといった。
蛙なのに、しっかり前をみて、少しかっこいいなぁと思ったのは内緒だ。
本当に少しだけよ?
だって蛙だもの!かっこつけても、おかしいが先にきちゃうわ!
私達は、また次の満月の約束をして別れる。
去り際、
「リリィ。お菓子につられて変な奴についていくなよ?」
アローは、心配そうに言ってきた。
「そんな訳ないでしょ!」
ぷりぷりして私は帰る。
15歳のレディがそんな事するわけないでしょー!