修行中だった
「そのあとしばらくは、生徒会にいたんですけど、二週間ぐらいでやめてしまいました。」
猫実さんは言う。巧は意外な気持ちでそれを聞く。真面目に生徒会の仕事をやり抜く道の方が、自然だと思ったからだ。しかし、それは猫実さんの信念の現れのようなものかも知れない。
「その理由は…」
日菊先輩が聞く。猫実さんは、
「なんか私には大きすぎる仕事だな…と思って。」
とあっさり言う。脇で聞いていた金子先生が、おかしげに笑う。巧も猫実さんの率直な言い方にはっとさせられる。
「生徒会って、学校全体のことじゃないですか。私はもっと個人的なことがしたかったんですよね。」
「なるほど。」
日菊先輩は細やかにペンを動かす。
「猫実さんはしっかりしてるね。」
山崎会長も感心したようにうなずく。
「いやあ、でも、たまたま周りの人に恵まれてなんとかたどり着いた感じです。」
猫実さんは謙遜して手を振る。巧はその様子を見て、自分が言うことはなさそうだなと思う。その途端にさみしい気持ちになる。
「部活動にすればとアドバイスをくれたり、いろいろ手続きを手伝ってくれたのは金子先生ですし、巧さんも入ってくれたし。」
猫実さんはリズムよく、金子先生、そして巧へと目線を配る。名前を呼ばれた巧はどうすれば良いのか分からない。
「浅野君はどうしてお助け部に?」
日菊先輩は今度はまっすぐに前を見て、巧に問いかけた。
「あ、はい、えーと…」
金子先生がすかさず巧にカメラを向ける。うつむくわけにはいかないので、日菊先輩の切りそろえられた前髪を見る。
「僕は、自分からと言うより、人に薦められて入ったんですよね。」
「ほう、それは誰に?」
山崎会長が巧に興味を持ってくれた。
「夜桜先輩です。あの、山崎会長も同じクラスですよね。」
「ああ、夜桜さんね…。はい。」
山崎会長はなんとも言えない顔でうなずく。夜桜先輩が同級生からどう思われているのかなんとなく分かった気がする。
「どうして君をお助け部に薦めたのかな、何か考えがあったのだろうか。」
「それは、僕もよく分かってないんですけど、小説を書くためには経験を積んだ方がいい、と言うことで人助けをしなさいと言われました。」
「なるほど…。」
山崎会長は、考えながらうなずく。
「そういう意味では、巧さんは修行中の身なのですね。」
思い出したように猫実さんが言った。巧も今自分でいって、気づかされた。
いつの間にか、小説は書くことが当たり前になっていたし、お助け部にいく意味も猫実さんに会いたいから、というようにに変わっていた。




