インタビュー
「では、お二人に自己紹介をお願いしてもいいですか。」
日菊先輩は、ノートを開いて、ペンを構える。山崎会長も同様。巧は猫実さんの様子を伺って、少し間を作る。
「じゃあ、私から。」
猫実さんが、手をあげた。
「私の名前は、猫実未来と申します。一年生です。いちおう、このお助け部の部長をしています。」
猫実さんは初々しく、丁寧に言い聞かせるような声で、話した。巧は猫実さんと初めて会ったときのことを思い出した。
日菊先輩は、淡々とノートに「ネコザネ」とカタカナで書いて手を止める。
「ネコザネってどういう字なんですか。」
「それは」
山崎会長が注釈しようとしたが、猫実さんの方が早く、
「猫って書いて、真実のジツです。」
と言った。猫実さんは人差し指で空中に漢字を書いている。
「なるほど。」
日菊先輩は、それを見ずとも、わかったようでノートにすぐさま書き留める。
巧の視界の隅で、金子先生がカメラを構えて、シャッターチャンスを狙っている。巧は怪我した手をさりげなく、机の下に隠す。
「じゃあ、次。巧さん」
猫実さんが、手のひらを巧の方に向ける。勝手に次に進んでもいいのか、と思ったが誰も気にしていないようだ。
「えーと、浅野巧と申します。趣味は小説を書くことです。」
猫実さんは、次の言葉を待つように巧を見た。これ以上言うとしたら、「自分は難聴です。」ぐらいしか思いつかないので、やめた。向かい合って座っているから、日菊先輩の声も問題なく聞き取れているし、猫実さんもいるから、空気がおかしくなることはないだろう。むしろ、ここで「難聴です」と言う方が扱いづらいだろうと巧は思った。
「ちなみに巧さんは、副部長です。知ってました?」
猫実さんは、わざとらしく首をかしげて巧の顔をのぞきこむ。
「はは。二人だけだもんね。」
山崎会長は、爽やかに笑う。
「そういうことですね、一応…」
猫実さんの大袈裟な動きが少し照れ臭い。のぞきこむ目をじっと見ることができずに、巧は目をそらす。
「一年生ですか?」
日菊先輩はポツンと尋ねた。唐突だったので、巧は自分に聞かれているのかわからず、少し遅れて反応する。
「ああ、はいそうです。一年生です。」
日菊先輩は、律儀に情報を書き足していく。
巧は、猫実さんに少しかき乱された集中を再び引き締める。
「お助け部のことなんですが、普段はどんな活動をしていますか?」
この質問は定跡だ。猫実さんも打てば響くように、スラスラと述べる。
「普段はこの部屋で待機して、訪ねてきた人のお悩み相談などを、受け付けています。待つ時間は長いんですけど、そのあいだに、二人で企画を考えたり、ポスターを作ったりできるだけ人の役に立つためにはどうしたらいいか、模索しています。」
日菊先輩は、真面目に書きつつも、猫実さんへの目配りを忘れない。うなずきながら、質問を返す。
「このお助け部を、作りたいと思ったきっかけってなんですか。」
これは巧には答えられない質問だ。思えば、猫実さんにはいつも人助けについて考えを聞くことはあっても、なぜ部活でするのかまでは聞いたことがなかったかもしれない。巧にとって、お助け部があり、放課後に猫実さんと会えるということは当たり前のことで、疑問にも思ったことがなかった。




