午後の来客
「う。」
「大丈夫ですか?」
猫実さんが手を止める。
「いや、びっくりしただけです。」
と巧がいうと、猫実さんは構わず手に力を入れた。
ぎゅっと握られる感じが少し痛いけど、健康に良さそうだ。小さな手だが、力が強く、ツボを的確に押さえている。
「どうですか?」
「うーん、効いている感じかすごくします。」
「なるほど…。」
猫実さんは肩もみの道を追求したいのか、巧の肩の色々な部分を押したり叩いたりして、反応を確かめた。その間巧は、逐一感じたことをコメントしなくてはならなかった。
部室にのどかな昼下がりの空気が流れ始める。巧はだんだん、まぶたが重くなっていくのを感じる。
猫実さんのように肩をもまれながら話すのは苦手だ。いつ返事が返ってくるのか分からないので、聞き取るのが難しい。普段の会話なら、相手が何に注目しているのか、口を開くタイミングなどから、リズムを掴んで集中しやすいのだが。
「そろそろ大丈夫です」
と巧は言うと、
「そうですか?」
と猫実さんは物足りなそうに手を止めた。
手が離された途端、感覚が戻ってくる。肩はあたたかくなって、軽い。猫実さんが言っていた「生き返ったみたい。」と言う言葉が的を射ているのがわかる。
「すごく楽になりました。」
巧は肩を動かして言った。
「よかったです!」
猫実さんはくしゃっと顔全体で笑った。
元気になったところで、怪我した手で何をすれば良いのか。巧は、猫実さんのように姿勢良く座り、余計なエネルギーを発散しようとした。
窓の外に見える青い空を眺めていたところ、猫実さんが何かに反応した。
「あ、誰か。」
立ち上がって、ドアの方を向く。巧も腰を浮かせて様子を見る。
ドアが開くと、そこに金子先生と生徒会の二人、山崎会長と日菊先輩が立っていた。
「こんにちは。」
猫実さんが言うと、三人ともバラバラに、おじぎをしたり、手を振ったり、「こんにちは」と言い返したりした。突然に賑やかな空気になる。
「生徒会の取材だって。」
金子先生が言った。
「なるほど、ここでしますか。」
巧たちがいつも座っている席の前にはいつも、二つ向かい合うように椅子がある。
「いいよ、私は案内しに来ただけだから、すぐ帰る。」
と言いつつ、金子先生が手を振った。
「あ、じゃあ、こちらに…。」
猫実さんは、生徒会の二人を手で案内した。金子先生は斜め後ろに立って、腰に手を当てる。目を細めて何かを探るように、四人の座った姿を見る。
「この様子、写真に撮れば。」
「いいですね」
金子先生の提案に、日菊先輩は首からカメラを下ろす。先生はカメラを手渡されると、ファインダーをのぞいて様子を見た。
いきなりカメラを向けられて、身構える巧に、猫実さんが、
「別に、カメラを見ていなくてもいいんですよー。」とさりげなく教えてくれた。
「そうそう、普通に話してればいいの。」
と金子先生が笑う。
巧はカメラがあるのに、それを見ないようにする方が不自然だと思ったが、何とか前を向く。
猫実さんの正面に山崎会長、巧の前には日菊先輩が座っている。向かい合うと緊張するが、職員会議に乗り込んだ時よりかはマシか、と思い出して、呑み込む。お助け部に入ってから、ストレス耐性が付いた巧であった。




