これからの事を少し
「でもだから、肩をもんであげたくなってしまうんでしょうね。」
巧が言う。日菊さんは猫実さんを見ているようだった。休み時間の騒がしさは次第に収まっていき、生徒たちが教室に戻っていく。猫実さんもチラシを話していた人に渡すと、小走りで巧たちの方にやってきた。
「そろそろ終わりですよ。」
「はい、じゃあ。」
巧と猫実さんは一年生の教室に戻る。ふと、日菊さんは何も言わずに階段のほうに歩いて行った。
「じゃあ。」
猫実さんと、巧はおじぎをして、見送る。上の階は上級生の教室がある。焦るわけでもなく、階段を上っていく日菊さんを見て、巧は先輩だったのだ、と今更思う。そうすると、さっきの落ち着いた感じが一層説得力を持って、胸に迫ってきた。どんな気持ちで、巧の言葉を聞いていたのだろう。
ノートをとることのできない授業はどこか味気なく、手を膝の上に置いたまま、先生の顔をじっと見ていた。一番前の特等席で聞いていると、教科それぞれの先生の特徴が見えてくる。授業は嫌いではなかった。むしろ、友達と話さなくてはいけないような空気から解放される時間だった。
「猫実さんは何にでも一生懸命なんです」
そう言った後に、改めて授業に臨んでみると、いかに雑念にまみれているのかが分かる。さっき日菊先輩と話していたことを何度も思い出す。猫実さんのことを思い出す。
猫実さんは、今のお助け部のことをどう思っているのだろうか。巧と二人だけだと、大変だと思っているだろうか。これからもっと、部員を募集したりするのだろうか。よくわからない未来のことを考え始めると、頭が痛くなってくる。当然耳に入ってくる授業の内容も飛び飛びになってくる。
自分もどうしたいのか、よくわからない。これからどんどん部員が増えて、お助け部が大きくなってきたら、自分はそこにいる中で、役目を見つけられるだろうか。
今の自分は猫実さんのために、何をしてあげられるだろうか。
巧は前を見て、黒板に書かれては消されていく文字を見つめたまま、じっと動けなかった。
「今日は、巧さんがボーッとしてますね。」
放課後、やはり、猫実さんは巧が何かを考えているのを見透かしてきた。
「今日は私が肩をもみましょうか?」
「ええー…いいですって。」
「遠慮しないでください。昨日のお返しです。」
猫実さんは、立ち上がって巧の背後に回る。
猫実さんの考えはしてもらったら自分も、という、いかにも単純なものだった。単純な分、否定のしようがないので、巧は仕方なく姿勢を正して、猫実さんの手を受け入れる準備をする。
「猫実さんこそ、無理しないでくださいよ」
「はいはい。」
猫実さんは笑いながら、巧の肩に手を触れる。




