喜ぶときはどんなとき?
考えるとは、一体どういうことなのだろう。考えながら巧は思う。学校の試験の問題を解く時とは違う頭を使っているような気がする。
どうすれば人の役に立てるか。
ただ一つの答えも、ヒントもない。誰もが平等にわからない。頃を六人で一斉に考える。なんだか非日常的だ、と思った。
「はい。」
巧の対岸に座っていた男子生徒が手をあげた。猫実さんがボールを回す。
「もしかしたら、その人がして欲しいことをしてあげた時喜んでもらえるかもしれない。」
そう言ってまた、おずおずとうつむいた。
「なるほど、確かにして欲しいことをしたら喜びます。他にどんなことをしたら喜んでくれたとかありますか。」
「あ、はい。」
番さんが、また口をもごもごさせながら手をあげた。
「あの、うちのおばあちゃん、何もしなくても喜びますよ。うちにあっただけで、『あーよくきた』って。」
いかにもありそうな話で、輪の中に笑いが起きた。
「何もしなくても、って不思議ですねえ。」
猫実さんも感心しながら笑っている。
笑いのさながら、山崎会長が手をあげた。
「それは、おばあちゃんがあなたに会いたいと、思っていたからでは?」
その指摘を受けるなり、番さんはすぐに手をあげ返した。
ボールが回ってくると口火を切った。
「いや、なんか違うんですよ。だって、おばあちゃんは常日頃うちのことを考えいているわけじゃないので…。会った途端に喜ぶんですよ。思い出したように。」
「なるほど。」
「なるほど。」
山崎会長と、猫実さんの相槌が重なる。番さんの率直な語りには不思議な説得力がある。
「うーむ、どうやらしてほしいことをしてあげる以外の、単純なようで単純でない喜び方があるみたいですね。」
猫実さんがうなずく。人を喜ばせる。それだけでもなかなかややこしい話になることに巧は驚いた。
「巧さんが何か言いたそうな顔してますねぇ。」
猫実さんと目があった途端、手をあげてないのに、指名されてしまった。ルール違反だと、抗議したくなったが仕方なく手をあげた。
「何か言いたそうな顔ってなんですか?」
と突っ込みながらも、ボールを持って考える。
「自分が喜ぶ時でもいいですか。」
「はい。」
猫実さんが笑いながら、うなずく。
猫実さんと一緒にいる時です、と言いたいところだが変な空気になってしまいそうなので、却下する。
「大切な人といるときとか、小説がうまく描けたときとかですかね。」
結果的にぼんやりとしか言えなかった。
「小説がうまく書けたときとかは、今までに挙がってないパターンですね。もうちょっと細かく聞いてもいいですか?」
軽く付け加えた後半部分が、意外にも引っかかったようだ。巧自身も、無意識にいっただけだったので、また考えなくてはならない。




