三年生の教室
「とりあえず様子を見るだって。」
金子先生は言った。巧は猫実さんを見る。嬉しいとも言えない顔で、先生の言葉を聞いている。
「まあ、何か言われない限りは続けて良いってこと。」
「よかった、のかな。」
巧は自分の心に問いかけるように言った。
「うん、良かった良かった。大成功だよ。」
金子先生はしきりに頷く。
「全く新しいことをやっているんだから。」
巧は猫実さんと一緒に、初日では回れなかったクラスに、宣伝をしにいった。一人づつ声をかけるやり方だ。勝浦の方は、クラスのみんなに、「今日もカフェやるぞー」と軽く呼びかけてくれた。
「夜桜先輩とか、三年生の先輩にも来てほしいですね。」
「そうですね。」
巧は、うなずくけれども不安になる。上級生が、自分たちの話を真面目に聞いてくれるのか。
夜桜先輩はともかく、他の面識のない人たちにいきなり声をかけて通じるだろうか。他のクラスに回った時も、「お助け部って何?」とか、「それってただの話し合いじゃないの」と言われることが多い。
「とにかく、話すだけ話してみましょう。」
授業の合間の休み時間は、夜桜先輩は自分の教室にいるはずだ。いつもどこにいるのかわからないが、猫実さんと訪ねてみることにした。その間、勝浦にはカフェの見張りを頼むことにした。「夜桜ファン」の勝浦も一緒にいけば良いと思ったが、なぜか照れていた。「俺に任せて、いってこいよ。」と巧を押し出してしまった。
夜桜先輩は、教室の前の方にぽつんと座っていた。廊下側の端の列で、すぐに見つけることができた。古ぼけた文庫本を開いて読んでいる。文藝部に居る時と変わらないようだったが、にぎやかな教室のなかに居るのを見ると、その特異さが、際立っていた。制服も、自分で着ているというより、着せられている感じだった。すらりとした体と、長い髪は他の生徒よりもずっと大人に見えた。
「せんぱい。」
猫実さんが、廊下から顔を出して、声をかけた。夜桜先輩は顔を上げて、こちらを見る。
「おお、ネコじゃないか。久しぶり。」
先輩は、立ち上がって巧たちのいる廊下に出てきた。教室に入って他の生徒の前で話すより、廊下で立っていた方が話しやすい。




