応えはある
「わたしたち、まだやっていてもいいんですかね」
猫実さんはお助け部の部室に戻る廊下で言った。ちょうどそのとき、職員室の前に来ていた。お助けカフェの机と椅子が並んでいた。
巧は猫実さんのその不安がわかるような気がした。やりたいことならいくらでもある。書きたいことはいくらでもある。それを阻むのは何なのか。今の自分たちにはそれがわからない。いつくるのかもわからない。だから、「やってていいんですか。」と誰かに聞きたくなる。
「いいんだと、僕は思います。」
巧は言った。
「そうですか。」
「ごめんなさい、それしか言えません。」
あわてて打ち消した。しかし、打ち消すつもりが、かえって消えることのない確かな感触を感じていた。
猫実さんが何と言おうと、「いいんだ」と自分は言うだろう。それしか言えなかったとしても、それだけは言うことができる。
「明日も頑張りましょうね。」
猫実さんは誰も座っていないテーブルを軽く撫でた。巧は立ち止まって、その後ろ姿を見ていた。
「毎日ですか。」
「…わかりません。」
猫実さんはめずらしく、しらないふりをするように、口をつぐんで巧を見た。
巧もどう応えるのかわからなくて、その場で立っていた。
「毎日、頑張るの大変でしょうね。」
巧はそうつぶやいた。小説も書きながら、お助けカフェもやっていて、巧は課題に十分手を付けられていない。少し寝不足気味である。しかし、どれだけ忙しくても書くことは止まっていない。むしろ、やめられない。書けば書くほど、まだ汲み尽くせないものが見えてくる。書くことは、自分に応えてくれている。「まだ書いていてもいいですか。」と問いかける巧に、まだいいのだと、応えてくれている。その応えが返ってくるうちは、書いていようと思う。いつか応えが返ってこなくなるかもしれない。しかし、それは今ではない。そんなことは、考えることもできない。
「ええ、そうですね。…巧さん。」
猫実さんはくるりとターンして、巧を見た。上履きが軽く床をける音と同時にピタリと目があった。
「わたし、あんまり明日のことを考えていないんですよ。」
何がおかしいのか、猫実さんは明るい顔でいった。秘密を打ち明かす魔法少女の様に言った。
「だから、わかりません。知りたいとも思えません。」
「そうですか。」
巧は不思議な気持ちで、ただ聞いていた。猫実さんは、もう一度大股で、一歩、巧の前に戻ると、
「行きましょう。」
と巧の肩を押して歩かせようとした。たったこれだけのことで、巧の心は晴れたように、明るくなる。不思議だと、ただ思う。
猫実さんは何を信じて、何を踏み込んで、明日に向かっているのだろう。自分なら、どうその問いに答えるだろう。なぜ肩を軽く押されるだけで、嬉しくなるのか。不思議なのに、前に進めてしまっている。




