扱いづらい武器
「てかなんで、お助け部がおるのよ。」
リッカーがスマホをいじりながら巧たちを見る。
「すみません。」
猫実さんが、申し訳なさそうにちょっと頭を下げる。
職員会議が終わった後、猫実さんは文学部に行こうと言い出した。
「あの、勝浦さんに、お礼を。お助けカフェに協力してくださたので。」
猫実さんはもう一度、空気を入れたように姿勢を正すと、目の前の勝浦にお礼を言った。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
巧も、ちょうど言いたかったので、一緒になって頭を下げる。
「いやあ、オレはできることをしただけだぜ。」
勝浦は、ほおを赤くして頭を掻いた。
「勝、何やったの。なんで照れてんの。」
リッカーは、おかしそうに笑う。
「照れてねえよ。お助けカフェのために人を呼んだだけだ。」
勝浦はうっとおしそうに、手を払う。人を呼んだだけ、と言うが、それができるのは巧にはうらやましい。
「あの、明日もやりたいから、また手伝ってくれる?」
巧は尋ねた。
「いいぞ。任せとけ。」
勝浦がすんなりそう言ってくれて、ふと気が楽になった。自分が誰かの力を頼りにする感覚がこそばゆい。
「リッカーもこいや。」
「はいはい…。」
半分聞き流すように、リッカーはうなずく。返事をしながらリングノートに何かを書いている。
「それで、今日は上手くいったの?」
村田先輩が手を止めて、二人に聞く。
「あ、おかげさまで…。でもまだ、職員会議でははっきりオーケーされてなくて。」
猫実さんは、おじぎをした。
「そう…続けられたらいいね。」
先輩は、またノートに向かい直した。
「職員会議?」
代わりにリッカーが手を止めて反応した。雑談しながらよく書けるなあ、と巧は感心する
「はい、さっきまで二人で先生たちに説明してきました。」
「誰先生?」
「あの、藤木先生とか、一年生の先生のみんなに。」
「うわっ。やばっ。」
リッカーが、不味いものでも食べたかのように顔をゆがめた。
「私なら絶対、緊張して吐くわ。なんか二人って大物だね。」
巧も緊張したが、自分は大物だなんて思ったことがない。ねこざねさんについていったらこうなっただけだ。ただ、そのいく先が普通の学校生活と少し違ったものになってしまった気がする。
「まあ、明日もやってみるか。ダメだと言われても何か別のことをいくらでもできるだろ。」
勝浦は、腕を組んでぼんやり言った。巧はうなずく。
「そうですね。」
猫実さんも同意をする。
今はそれぐらいのことしか言えないというのが、正しいかもしれない。
「あ、そうだ浅野。」
勝浦がはっとして机を叩いた。
「あれ、読んだぞ。」
「ああ。」
勝浦がカバンの中から、どっさりと原稿用紙を引っ張り出してきた。巧が書いた最初の小説だ。
「なにこれ?」
リッカーがまた変なものをみた、というように声を上げる。村田先輩も手を止めて、文章の束に反応する。
「面白かったぞ。荒いけど言いたいことはわかった。」
勝浦はそう言って、原稿用紙をパラパラとめくった。
「面白いって初めて言われた。」
「よかったですね。」
猫実さんは一緒になって喜んでくれた。猫実さんに見せた時の評価は「まあまあ」だったのだが。
「ただ、主人公が難聴だったらその味を出してもいいんだけどね。」
「うん、それは猫実さんにも…。」
「そうですよね…。武器を生かしきれてない感じが。」
「そうだ、武器だ。猫実さんいい言葉だ。」
勝浦は大きくうなずく。
とたんに巧は、夜桜先輩に言われた言葉を思い出した。
「普通と違うことは、武器になる。」
そう言われてから、いまだに巧は考えている。自分でもわかっているようで、扱いづらい。




