最後の作戦会議
次の日の朝、巧はいつもより早く登校した。着いたらまず、職員室前の様子を確認する。先週の通りに、机と椅子が並んでいる。それを見てまず安心した。
それから、お助け部の部室に向かう。猫実さんはまだ来ていないようだ。巧は鍵を持っていないので、床に腰を下ろしてまつ。
胸がやけに高まっている。それをしずめようと、息を吐くがどうしても抑えられない。朝の部室棟の静けさの中で、ただ一人緊張している。他のことをしていようと本を開くが、話が入ってこない。代わりに、空想の世界に思いをはせる。今感じている新しい気持ちのありようを、どうやって物語にするか。
空想はあまり進まなかった。今まさに自分が体験していることは、物語ではなく現実なのだと思い知る。自分が今日、猫実さんと人を集めてカフェを開くのだ。他の誰かではなく、自分が。
そうしているうちに、階段をかけあがる音が聞こえた。猫実さんだった。
「巧さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
巧も立ち上がる。走ってきたのか、猫実さんは息がすこし上がっている。
「これ」
猫実さんがバッグを前にまわして開ける。中から、バレーボール大の毛玉が顔を出した。色とりどりの毛糸に包まれた丸いボール。まるで未知の生命体のような好奇心をそそられる形だ。
猫実さんにコミュニケーションボールを渡されて、巧はその感触にまた、胸が熱くなる。
ボンドも乾いていて、フェルトもしっかり縫い合わされている。
「髪を乾かすみたいにドライヤーでやりました。」
猫実さんは、鍵を取り出して、部室のドアを開けた。ドアがレールを走る音が、朝の静寂を勢いよく破る。
「さあ、最後の作戦会議です。」
猫実さんは巧を見た。その目はやる気で満ちあふれていた。そしてわかった。自分のこの緊張は、これから始まることにワクワクして体が震えているのだと。
手伝ってくれることが確かな文学部を除いて、どのぐらいの生徒が参加してくれるのかはわからない。始業前の時間帯と各授業のあいだの休み時間に声をかけて、参加してくれる人を探すしかない。カフェで行うコミュニケーションボールを使った哲学カフェは、六人が定員だ。しかし、それ以外の机が置いてある飲み物スペースは、何人でも自由に使っていい。とにかくにぎやかにするためには、そこに人をよぶことだ。
「勝浦に頼んでよます。声も大きいから、宣伝手伝ってくれそう。」
文学部の中でも、特に巧たちの計画に賛同してくれたのは、勝浦だった。
「わかりました。では、巧さん、一声かけてみてください。自動販売機の前とかで、飲み物を買っている人を誘ったりしましょう。」
「はい。」
「私は、そのあいだ、知っている人にチラシを配ります。」
猫実さんは手書きで書いたチラシをコピーして配るみたいだ。束を二つに分けると、巧に手渡す。
「朝のうちは、手分けして配りましょう。」
「はい。」
チラシには、猫実さんの字で「お助けカフェ、本日開店」と書いてある。昨日、巧が帰った後、猫実さんが一人で作ったのだろう。巧はそれを受け取って、うなずいた。




