表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリエイト!(その3)  作者: 大塚
新しい始まり
71/118

訪問

 電車に乗って、猫実さんの最寄り駅まで行く。電車の中で猫実さんはただ、窓の外をみていた。午後の太陽が空を明るく照らしている。普段なら眠くなる時間だが、電車が一駅進んでいくたびに、胸がぎゅっと緊張する。どうすれば良いのかわからない。自分が嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか。

 電車から降りると、懐かしい風景が広がっていた。夏休みに花火を見に行ったのも、猫実さんの地元だ。同じ電車の沿線とはいえ、巧の住んでいる町とは雰囲気が違う。海の近くの、開放的な町だ。

 しばらく歩くと、高いマンションが立ち並ぶ通りに入った。猫実さんは、何も言わなかったが、それだけでマンションに住んでいたのだとわかった。逆にいえば、巧は今まで猫実さんがどんなふうに暮らしているのか、家で何をしているのか、何も具体的なことを知らなかったのである。

 自動ドアのセキュリティーゲートを通る。クーラーの冷たい風が心地よく吹いている。ホテルのようなロビーに、どこからか優雅な音楽が聞こえる。一軒家に住んでいる巧は、慣れない空間に縮こまる。

 「きれいですね。」

 「そうですよね。」

 猫実さんもなぜかうなずく。その口調は、自分が住んでいるマンションなのに、よそよそしかった。住んでいる場所に対する感覚も違うのだと、軽くカルチャーショックを受けた。カウンターの女性に軽く挨拶をして、さらに奥に行く。エレベーターホールがあり、猫実さんはボタンを押す。時間が経てば経つほど場違いな感じがする。

 そうしているうちに、エレベーターのドアが開き、乗り込むと部屋のドアの前に立っていた。猫実さんはバッグから鍵を取り出す。インターホンを押して待つ暇もない。

 気がつけば、上品な掛け軸がかかった玄関に上がり込んでいた。

 「おじゃまします。」

 巧がいうと、猫実さんのお母さんらしき女性が、出迎えてくれた。細いけれども、心がしっかりしていそうなお母さんだった。

 「あら、いらっしゃい。あなたが例の巧さんの。」

 「え、ええ、浅野巧です。いつもお世話になっています。」

 例のと言われて、巧は複雑な気分になる。猫実さんは自分のことをどのように話しているのだろう。

 「一度会ってみたかったのよ。この子の相方と聞いて、どんな人かしらと思ってね。」

 猫実さんのお母さんは、顔をほころばせた。笑ったときにふわりと包み込む感じが、とても似ている。と巧は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ