空の色のボール
大きなショッピングモールの手芸屋さんとあって、毛糸の色はよりどりみどり、だった。猫実さんが好きな青の毛糸を二人はまっさきに選んだ。
色とりどりの毛糸が、ラックにつるされて並んでいる。
巧は、オレンジ色の毛糸を手にとった。今の明るい気分に合う色だと思ったからだ。
「巧さんが好きな白もまぜます?」
「いいですね。」
色々と手にとっていくうちに、イメージがわきあがった。
「空の色にしませんか?」
巧は、思い切ってアイデアを打ち明けてみた。
「夕方のオレンジとか、黄色とか、紫もまぜて…。そしたら毛糸だし、見る角度で違って見えてきれいかも。」
「いいですね。じゃあ、青をベースにして、いろんな色を…。濃い青よりも、薄めの空色の方がいいかもしれませんね。」
猫実さんの目から迷いが消えて、手つきが真剣になる。空色と、紫色、黄色と、オレンジ、アクセントとして、雲の色のグレーを少し。贅沢な気がするが、毛が外観の全てなのだからこだわっても構わないだろう。
「今度はボール本体なんですけど…。」
巧は、紙を丸めて作っても、ビニールボールにくっつけてもいいような気がした。
「中綿にしませんか。」
猫実さんが近くにあった、綿を指さす。
「できますか?」
「はい。手芸好きですもの。」
猫実さんは腰に手を当てて、えへん、とあごを軽く上に向かせた。そういえばお助けピョン吉のぬいぐるみも作ったのは猫実さんだ。
大きめのフェルト二枚と、中綿を買う。毛糸は、布ようのボンドで貼り付けてみることにした。作業場なのだが、モールでするわけにはいかないから、どこか適当な場所を探さなくてはいけない。
猫実さんは、自分の服を見て考え込む。
「部室で作業したいなぁ。でも私服で来ちゃったし。」
「学校開いているか分からないし。」
「私のうち来ます?」
「う…。邪魔じゃないですか?」
巧の顔がひきつる。
「いいえ、私の部屋なら全然。」
猫実さんが首を振る。巧は猫実さんの部屋ならなおさら緊張する。
「でも…。」
「他に思いつかないんです。」
いきなりすぎる気もするが、確かに大掛かりな作業をできる場所は他にない。自分の家に上げるのも気が引けるし…。そもそも今の自分の部屋が猫実さんに見せられる状況とは思えない。
「それなら、仕方がない…ですね。」
そもそも、昨日の打ち合わせでも買い物のことしか話題に上がらなかった。やっぱり、作業する場所について、いい案が他に無かったということなのだろう。
「お母さんに電話してみます。」
と言って、猫実さんは巧の方を見たまま、携帯を取り出し、耳に当てた。
巧はそのあいだ、ひとり静かに心の準備をする。そして、決めた。部屋ではひたすら、毛糸を決められた長さに切るだけの機械になろう、と。




