やってみれば
職員室にもう一度訪れると、金子先生がひとりパソコンをにらみつけてキーボードを打っていた。下校時刻も近いので、残っている先生も少ない。
「先生。」
巧は後ろから声をかけた。
「はい。」
金子先生は、音を立てていくらかキーを叩くと、パソコンを閉じて巧たちに向き直った。
「何?」
「お助けカフェの企画なんですけど。ワークショップみたいな、具体的に何をするかはっきりしている方がいいかと思って。」
猫実さんは、さっき巧と二人で書き直した企画書を先生に差し出す。
「今から変更って可能でしょうか。」
「あ、いいよ。それより、他の部活はどうだった。」
金子先生は紙を受け取って目を通す。
「文学部は協力してくれるみたいです。巧さんのおかげで。」
猫実さんは手のひらで巧を示した。巧は、笑いながら頭をかく。
「他は、全くわからないんですけど。どの部活もわかってくれなくて。」
「うーん。そんなもんか。」
金子先生は、デスクに企画書を置くとまたパソコンを開いた。
「浅野たちがやろうとしているの、これじゃない?」
金子先生がパソコンで開いた画面には、輪の形に並べた椅子に座って、人が語り合っている画像があった。
「これ、対話療法っていうんだけど、今自分が抱えている問題について、こうしてみんなで話し合うの。」
「それ、かもしれないです。」
巧は、うなずく。
「もうすでにやっている人がいたのですね・」
「うん、そう。外国でもやってて、精神科のお医者さんも取り入れてる。」
巧は、話すテーマが重くなりすぎないかと心配になった。昼休みの一時間足らずで、人の悩みに応えてあげられるだろうか。
「これ、お医者さんとかしかできないんじゃないですか。何も言えなくなったらどうしよう。」
「まあ、それはテーマによる。後は、こんなのもある。」
金子先生は、パソコンをもう一度打つと違う画面を示した。
「p4cってさ、知ってる? 子供のための哲学」
金子先生が出したページには、今度は子供たちが輪になって座っている。小学校に上がる前ぐらいの小さい子たちだ。
「凄い。」
猫実さんが簡単の声を上げる。
「そう。学校の道徳の授業とかでやってるのよ。なんで勉強しなきゃいけないの、とか。家族って何、とか。」
「それかもしれない。」
金子先生の、示す例がどれも最もらしく感じる。自分たちのしたいことが、それを見せられてやっと形になってきた感じがする。
「最初、カフェって浅野が言ってたから、こういう哲学カフェのことかと思ったんだけど、違う?」
「うーん。確かに、人が自由に集まったり話したりできる場所を作りたいって思ったんですけど。」
「あの、哲学カフェって哲学を勉強しないといけないですか?」
「いや、そうでもない。」
猫実さんの質問に、金子先生は首をふる。
「基本的に、人の話をよく聞いて、司会が会話を調整すればオッケー。後は、自分の思った通りに話してもらうだけ。」
金子先生は、膝の上に手を置き直して、巧たちを見た。
「やってみれば。」




