話してみたけれど
文学部を出たあと、猫実さんはもう一度、巧を見て弾けるように笑った。その顔を見ると、巧は堪らなく嬉しくなる。まだ一つの部活しか回っていないのに、胸がいっぱいになる。
「ちょっと疲れました。」
巧はそう言って、文学部の前の壁にもたれた。いきなり活動中の部活に乗り込んで、いきなり手伝ってほしいとお願いする。お助け部なのに、助けてくださいと自分たちの方から頭を下げているのがどこかおかしい。
「大丈夫ですか…。」
壁に立てかけられた棒のようになっている巧の背中を猫実さんがさする。
「まあ、何とか…。」
背中に手の感触を感じて、巧は次のことを考え始める。二人でいるのに、お互いに何を言うべきなのか決まっていない。
「あのう、何を話すか二人で打ち合わせませんか。」
巧はくるりと向き直って言った。
「あの、それなんですけど…。さっき巧さんが言ってたやつでお願いします。」
猫実さんは、悪げなくにこりと笑う。巧はこれから先ずっと話すことになるのか、と目の前が暗くなった。
部室棟に並んでいる部活を片っ端から回っていく。科学部、演劇部、将棋部、囲碁部、鉄道部、生物部…。そもそも活動ていない部活もあった。話のきっかけを作るにあたっては、やっぱり猫実さんが心強かった。おじけずにノックして、話を切り出す。された方は、とつぜん見知らぬ人に頭を下げられて戸惑う。それをなんとかなだめようと、丁寧に丁寧に説明していく。
「なんでうちなんですか。」という質問に、「いるだけでいいんです。」と二人で口をそろえて答える。「いるだけならいらないでしょ。」と言われたら、「いるだけが大事なんです。」と連呼する。相手が話を聞いてくれるようになるまでが勝負だった。たいてい、門前払いされたり、なんとなく聞き流されたりして終わってしまう。しまいには、「猫実さん、演劇部どう?」とか、「うちでスライム作ってかない?」とか部活の話を逆にされてしまった。
「結局、文学部が一番まともに聞いてくれましたね。」
部室棟のはしまで回って、猫実さんはため息をついた。ずっと話していたので、気疲れしたみたいだ。
どれだけ話しても結局、月曜日に必ず来てくれるという確約までにはいかない。少しこの方法に限界を感じてきた。
「ひとまず、部室に戻りませんか。」
巧の提案に、猫実さんも従った。




