奇襲作戦
「今、職員室前に現れた、謎の建築物に先生たちはうろたえてる。職員会議では、犯人探しをはじめる話も出てる。」
金子先生の話を聞いて、巧は冷や汗が背中を伝うのを感じた。思いついた張本人である自分を憎んだ。
「やっぱり片付けたほうが…」
「金子先生は、職員会議の時に私たちのことを説明しなかったのですか。」
巧の弱音を押しのけて猫実さんが質問する。その目は、金子先生だろうが容赦無く真っ直ぐに開かれていた。
「ああ、知らないふりをした。」
金子先生は、首を振った。
「どうしてですか。」
「この問題は、勢いが全てだ。」
先生は、机に身を乗り出して、巧たちの目をじっと見た。覚悟はいいか。と問われている気がした。
「もし、職員会議で私がお助け部がやった、と答えていたらとっくにカフェは撤去されてただろう。」
はっきりと言い切られた。巧は何も言えなくなった。猫実さんは、はっと息を呑んだ。それでも何かを言おうとしたが、じっと金子先生の言葉を待った。指導室の空気が一気に重くなる。
「でも、勝機はある。」
金子先生は、人差し指を立てた。
「議論になる前に既成事実を作ってしまえばいい。」
放課後までに企画書を作れ。それが、金子先生の命令だった。放課後と言っても、もう昼休みは終わっている。目が回りそうな勢いで、授業の合間の十分休みに手を動かして文章を捻り出す。授業中に一番前の席で、別のことをするわけにはいかない。だから、頭の中で留めておいたセンテンスを、一気に放出する。
『お助けカフェは、生徒同士のより良い活発な交流を促進するボランティア活動です。』
巧は、ひたすらに言葉を書き続けた。普段書いているとは言え、このような事務的な文章ではなく、小説しか書いていない。信じられるのは自分がただ、普通の人より書き慣れているということだけである。
金子先生の声が頭の中で、反響する。
「いいか、部活動ではなく『ボランティア』と書け。」
スパイのボスのように金子先生は、学校という社会の仕組みを知っていた。
「昼休みの部活動は禁止されている。校則の網を抜けるには、ボランティアしかない。」
それを頼りに、巧は文章世界を走り抜ける。
今頃、猫実さんの方は、お助けカフェの完成図、そして部長として、お助け部自体のコンセプトなどをまとめているはずだ。
金子先生の作戦は、こうだった。
今日の放課後、巧たちから企画書を受け取って土日に修正する。これは、お助け部の意見を固めるだけでなく、金子先生が「お助けカフェ」について検討していた、ということを示すことができる。金子先生は問題を放置したとみなされるのを回避することができるし、お助け部も無許可で計画を実行するつもりではないことを示せる。
そして、週明けの月曜日、朝の職員会議で企画書を提出すると同時に、昼休みにカフェを決行。もはや、カフェを片付ける暇がない状況なので昼休みに行うことはできるだろう。
「勝負はここにかかっている。」
金子先生は言う。
もし、この昼休みカフェが成功すれば、お助け部がカフェを行うこれ以上ない正当な理由になる。そして、放課後の職員会議に巧たちも金子先生とともに出席する。
カフェが成功した事実を携えた万全な状態で、先生たちの前でプレゼンできる。
企画書って通る前から実行していいんだっけ。と疑問に思ったが巧は突っ込まないでおいた。無茶のある作戦だが、金子先生の作戦が、文字通り唯一の手段だと思った。




