密談
次の日、学校に来ると当然のことながら、お助けカフェはそのままの姿で廊下に鎮座していた。ひとり確かめに来た巧だったが、自分がこんな目立つ活動をしていると思うと、身が縮こまる。通りかかった人たちが、「何これ」といいながら、二度見する度に、背筋がくすぐったくなる。
昼休みになっても猫実さんが訪ねたりして来ないので、一人で弁当箱を開ける。猫実さんと会えないのはすこしさみしい。さみしいと思うなら自分から会いにいったらどうだろう、と考えた。猫実さんなら受け入れてくれるかもしれない。でも、周囲の人にわざわざ猫実さんに会いに来ていると思われるのが恥ずかしい。お助け部で二人きりで会うのは平気なのに。そんなことを考える自分のこと嫌だった。本当に好きなら、ぐずぐずしていないで会いにいくべきだろうか。
巧が、一人で悶々としていると、突然、金子先生が教室に入ってきた。迷わず巧の前まで歩いてくる。「浅野、一時に職員室これるか。」巧はうなずく。あまり楽しそうでない呼び出しだ。
急いで弁当を食べ終えて、職員室に向かう。案の定、猫実さんも待っていた。昨日セッティングしたカフェの周りには誰も寄り付かない。机と椅子がオブジェのように空間に取り残されている。
猫実さんは、職員室のドアをノックした。巧は息が詰まるほど緊張していた。猫実さんは「なんでしょうね」と目配せをしてドアを開けた。
金子先生はデスクをたって、巧たちを指導室に連れ込んだ。職員室の脇にある、小さな個室だ。四人がけの机だけがあり、生徒と教師がみっちり話し合うための環境が整っている。巧は身に覚えがないが、もし本当にここで「指導」されたらたまらないな、と内心おびえていた。同じ職員室のある廊下の並びなので半透明のアクリルのドアから、お助けカフェも見える。
「えーと、作戦なのだが…。」
金子先生が、苦い顔で口火を切る。猫実さんが、すっと背筋を正す。それだけで空気がピンと張り詰めた。その雰囲気にやはり猫実さんだ、と巧は思う。自分もなんとなく、神経を集中させる。これで、聴力が上がるかどうかはいまだに謎なのだが。
「カフェの件は、朝、ソッコーで職員会議の話題になった。」
それが何を意味するのか、巧にはわからない。
「誰がやったのかって話。」
巧たちの表情を見て補足してくれた。
「わたしたち、ですけど…。」
猫実さんがあまりにも素直におずおずと手をあげた。
「わかってるって。問題は、誰を味方につけるかってことだよ。」
金子先生は、不敵に笑った。まるで、難しいパズルを楽しむかのように。




