カフェ変形!
「これ、椅子がない方がよくないですか。」
巧は缶を置いて立ち上がった。目の前に座る、金子先生と猫実さんは飲み物を飲んでくつろいでいる。巧はもう一度深呼吸して、自分の考えをなんとか頭の中で整理する。
「えっと、なんか椅子があると逆に六人だけにしばられるのがもったいないな、と思って。こうやって缶を置いて、立ち飲みする場所みたいするとか。そしたら、開放感もあるし、気軽に集まれる。」
「はい。」
猫実さんは顔の横に手をあげて、発言権をもとめた。巧は黙って耳を傾ける。
「じゃあ、ゆっくり相談するスペース、なくしちゃうんですか?」
巧は考えこむ。それが懸念になるのはわかっていた。
「椅子も、戻さないといけないですよ。」
猫実さんは、お茶を一口、ごくりと飲んでため息をついた。となりの金子先生は、窓の向こうを見ながら足を組んで二人の話を聞いている。夕方なのにエナジードリンクを飲んでいてちょっと切ない。
「椅子か。」
巧はあいている別のスペースを見た。六つの机を置いても、まだ通りには余裕がある。
「椅子だけ輪っかにして、座る場所つくれませんかね。机は立ち飲み、椅子を話にして、話し合いとか…。」
「なるほどな。」
金子先生がめずらしく感心してくれた。
「あ、いいかも。」
猫実さんにも伝わったらしい。
「いいです。巧さん、すごくいいです。そうしましょう。」
猫実さんがとつぜん立ち上がる。
「え、何、立つの?」
と金子先生も缶を置いて立ち上がる。猫実さんは、さっそく自分の椅子を引き出して島の外れに置いた。巧も円になるように椅子を配置する。
金子先生が最後に椅子を置いて輪が、完成する。さっきよりもだいぶスペースを取るが、もともと何もなかった場所なので、不都合はない。
猫実さんと試しに座ってみる。反対側の人とは大体1メートルぐらいの距離だ。巧は会話ができるか少し不安になった。ねこざねさんならいいが、声の小さい人だと聞き取れないだろう。
「どうですか。」
「ちょっと遠いですけど…。お悩み相談ってどんな感じでやるんですか。」
「うーん。そうだな、相談というより、語り合いみたいな。」
「この椅子の並べ方だと、そのイメージだね。」
金子先生もうなずく。
「個別で話すよりも、集まって語らうことの方が向いている。」
だとすると、一人ひとりの話を正確に聞き取れなくてもなんとか成立しそうだ。巧は、少し安心する。相手の話をちゃんと聞いて正確に受けごたえをしなければならないよりも、一人ひとりがそれぞれ自分の言いたいことを話す、という形式の方が楽だ。
猫実さんも一緒にいるし、場が持たなくなることはないだろう。
ただ、実際にやってみるまではどれだけ考えても、はっきりと見えてこない。




