カフェつくろう
「ええい。」
猫実さんがとつぜん立ち上がった。そのうなり声に巧は、びくりと肩を震わせる。今までの行き詰まった話し合いの時間で、けだるくなった目が覚める。
「ここでじっとしてるから、いけないんだ。行きましょう。」
猫実さんが机を叩いた。ばん、という音が響く。
「行きましょうって、どこに?」
「カフェを造りに。」
学校が建て替わるにあたり、古い机や椅子も処分されたようだ。まだ学校に残っているというので、金子先生が置き場に案内してくれた。体育館倉庫のそばに、ブルーシートが敷かれていて、その上に学習机がぎっしりと並んでいる。ざっと見て教室の人数分ぐらいある。
「運びます。」
猫実さんが一番端の一つにつかみかかる。しがみつくように両端を持って、運びだそうとする。巧も急いで駆け寄って片側を持つ。
久しぶりに体力をかなり使いそうだ。巧は内心で覚悟を決めた。これを職員室の前まで。
「ったくもう。」
金子先生は、嫌々椅子を持って、手伝ってくれる。
「ありがとうございます。」
猫実さんと、机を持ちながら、先生にお礼を言う。振り返って首だけでおじぎをしたねこざねさんの足元がふらつく。「よっと。」机が揺れるが、猫実さんはうまく転ばずに立て直した。
「これをあと、うーん六回ぐらい。」
猫実さんはうれしそうだった。
運び終えころにはちょうど下校時刻にさしかかっていた。人気がない職員室前の広場に、机六つ分の小島ができた。猫実さんと、金子先生が自動販売機のほうに、飲み物を買いに行った。巧は小島を見てどのように使われるのかをイメージした。
職員室前のスペースは広いとはいえ、机が並んでいるとなかなか迫力がある。行き交う生徒たちの注目の的になる事は間違いない。だとすると、座ることができるのは六人だけなのは少ない気がする。座っていても、いろいろな人に見られていたら落ち着けないだろう。かと言って、猫実さんと二人で昼休みの間ずっと立っているのは辛い。
ふと、誰かに呼ばれている気がした。その瞬間、背中にとん、と軽く手がふれた。お茶のペットボトルを持った猫実さんが立っていた。
「巧さん。」
巧は、猫実さんの視線の先を見る。金子先生が自動販売機のそばで、手をひらひらと振って呼んでいる。
「金子先生が飲み物買ってくれるって。」
遠くから呼んでも気がつかなかったから、猫実さんがかけよって教えてくれたのだ。巧は、入れ替わるように金子先生のもとに急ぐ。
「すみません」
「いいよ。」
金子先生はただ、それだけ言った。巧はそんなふうにさりげなくゆるされるだけで、心が明るくなった。
「何飲みたい。」
ビカビカ光る自動販売機のボタンを見ると、それだけで飲み物なんてもらわなくても十分に思えた。巧は一番真ん中の飲んだこともない飲み物のボタンを思いきり、人差し指で押した。
「何よそれ。」
金子先生のツッコミが缶が落ちる音と同時に鈍く響いた。




