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クリエイト!(その3)  作者: 大塚
新しい始まり
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忘れてください

 電車から降りた後、巧はずっと猫実さんの言葉を頭の中で繰り返していた。あんなふうに、お願いされるとは思っていなくて、巧の方が戸惑ってしまった。

 家に帰ってからも、宿題は手につかなかった。猫実さんがくれたアイデア帳をめくりながら想像を走らせていた。猫実さんの細やかな字をながめていると本当に、そこに猫実さんがいるのではないかとわもった。思わず、ノートに書かれた字に指で触れた。

 猫実さんはずっと書きたかったのだな、と思った。自分が想像しているよりも、ずっと、彼女の世界を大切にしているのだとわかった。登場人物は皆、細やかに設定されていた。どういう暮らしをしているのか、誰か好きでどんな気持ちを抱いているのか。これ以上巧が書き足すことなどないように思えた。

 書いてあげることが、猫実さんの救いにもなることがわかっていた。猫実さん自身が書くという想定した形とは違う。しかし、自分が書くことで確かに猫実さんの思いは、果たされるだろう。

 ノートの前で座っていると、猫実さんからメールがきた。

 息が詰まる思いで、携帯をつかんで、巧はそれを読んだ。

 「今日は本当にごめんなさい。」という件名だった。


 「はい」

 次の日、巧は猫実さんにアイデア帳を返した。猫実さんは「ありがとうございます。」と、それを受け取った。巧はどうすればよいのかわからないままだった。昨日のメールで、猫実さんは「やっぱり忘れてほしい。」と巧に伝えた。もちろん巧は忘れることなどできるはずがなかった。

 「昨日はすみません。勝手なお願いをして、恥ずかしいです。」

 猫実さんは、申し訳なさそうに声を落とした。

 「そんなことないです。」

 巧は元気付けようとして、声を大きくする。

 「また何か手伝うことがあったら言ってください。」

 「ありがとうございます。優しいですね。」

 すんなり、優しいと言われて、巧は意外だった。優しいって、どういうところがそうなのだろう。自分はただ、猫実さんの話を聞いていることしかできなかった。それだけでも良かったのだろうか。

 「あの、来週のカフェの話しませんか。無理なら月曜日じゃなくてもいいんじゃないですか?」

 「いえ、やります。」

 猫実さんは首をふった。それは自分の気持ちを切り替えるためのようでもあった。目には、気合が戻り始めていた。

 「お助けぴょん吉も作りましたし。」

 猫実さんは、掌に乗るほどのぴょん吉のぬいぐるみを机に出した。桃色のフェルトの体に、リボンの鉢巻きを頭に巻いている。鉢巻には、「お助け」と手書きで書かれている。巧はぴょん吉の釣り上がった眉と黒々とした目を見た。少し、元気が湧いてきたような気がする。

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