忘れちゃう
「どうしたら話しやすいですか?」
急にしゅんとする猫実さんを見て、巧は今更気がついた。猫実さんのまえでは聞こえにくい自分をあまり伝えられていない。
巧にとって、猫実さんは話しづらいということを忘れて、関われる人だったからだ。
「猫実さんとは、すごく話しやすいです。」
それを言うと、巧は急に恥ずかしくなってきて、猫実さんを見られなくなった。何もないところでつまづきそうになるほど、あわふためいた。とっさに猫実さんが手をのばして、よろける巧を支えようとする。
「すみません。」
歩きながら、しかも街中でゆっくり話すのは苦手だ。
「なんて言えばいいのかわからないんですけど。」
「うん。」
「猫実さんといるときは、自分が人と話すのが苦手だとか、聞こえにくいとかも忘れちゃうんです。」
「忘れちゃう?」
「うん、猫実さんは声も聞きやすいし、自分のこともわかってくれてるし、話も普通にできるから。でも他の人と話したりすると、ああまた聞こえるふりをしてしまったとか、思い出すんです。」
「ああ、それが忘れるってこと?」
「そう一人でいるときと…わかってくれる友達といるときだけ。」
「そっか…。むずかしい。」
猫実さんはうでをくんで考え込む。巧だってどう考えればよいのかわからない。
「私は、お助け部にいる巧さんしか知らないから。なんかごめんなさい。」
ペコっと猫実さんは首を下ろした。巧は、逆に申し訳ない気持ちに襲われる。
「別に謝らないでいいです」
自分でもうまく説明できないのだ。どう言う風に苦しいのか。突然に気がついたときには、一人取り残されている。会話から外れて、一人で本を開いて別の世界にいる。
考えれば考えるほど、自分の弱さや苦しみにとらわれるみたいで、体が冷たくなる。




