ゴーサイン
「いいんじゃない?」
「おおっ。」
猫実さんがその場でぴょん、と小さくとびはねた。巧にもその熱気が伝わってきた。
「まず、一週間やってみれば。」
金子先生のゴーサインで、お助けカフェは次の週の月曜日から設営されることになった。
残りの準備期間は土日をいれて、五日。いきなり来週と猫実さんは言った。
「あまり準備できることはないですし、早ければ早いほどいいですから。」
と金子先生の前できっぱりと言い切った。
金子先生は、「いいよ、やりな。」と作ったようにニコッと笑った。多分めんどくさくなったのだ。
さまざまな許可は要らなかった。たぶん職員室の前のスペースを活用する、という行為を誰も想像できなかったから。お助けラジオの話よりも、早くお助けカフェは実行段階に進んだ。
「ねえ、巧さん。百円ショップいこっ」
職員室からでるやいなや、猫実さんは目を光らせてまたぴょんと跳ねた。
荷物を部室に置いて校門を出る。なんとも言えない開放感が巧の胸に広がる。重さから解放されて、ゆっくり通学路を歩いていると、風景もいつもと違ったように見えてくる。
自由な気もするが、制服のままなので完全に息を抜けるわけでもない。しかし、巧にとってはじゅうぶん非日常だ。
巧は店の場所をよく知らないので、猫実さんにそのままついてゆく。寄り道をあまりしたことがなかったし、する機会もがない。外の世界を教えてくれるのはいつも、友達だ。猫実さんは歩きながらあごに手をあてて考えている。
「段ボールと紙は学校で手に入るし、マッキーもあるし、あんまり買うものないかも。」
猫実さかはてへっと笑った。それからほとんどスキップするように、足を大きくあげて歩いた。巧はそのまま普通に歩いているので、猫実さんはそのスピードに合わせてゆっくりと大きく足踏みをする。
「まあ、楽しいからいいじゃないですか。」
巧も一緒にスキップしたいぐらいだが、恥ずかしくてできない。学校の外でも、猫実さかは変わらず猫実さんらしい。
巧はどちらかと言えば、学校ではじっと自分を押し込める時間の方が多い。
「机も椅子もあるし、作るのは看板ぐらいか…。」
「いや…。ずっと向き合って話してるってつらくないですか。」
巧は自分だったらただ話すだけの場所にわざわざ行こうと思わない。
「ただのおしゃべりだったら、わざわざカフェに行かなくても教室でできるんですよ。ただ…。」
巧は口ごもる。猫実さんもスキップをやめて次の言葉を待っている。口にしてもいいのだろうか、と少し不安になる。じっと顔をのぞきこむ猫実さんの目をみていると余計に緊張してきた。
「教室で話せないような人のための…。というか、会話が苦手な人も来れるようにしたくないですか。僕が苦手だからそう思うんですけど。」
巧は一気に言い切って、また前をみた。




