放送部でランチタイム
次の日の昼休み。廊下からぱたぱたと猫実さんが走ってきた。そのまま、「失礼します。」と一礼して、巧の教室に入ってくる。最前列に座った巧をみつけると、目をきらんと光らせて、机にぱんと手をおいた。
「巧さん、こんにちは。番さんが話を聞いてくれるって。」
猫実さんの片手には、手ぬぐいで包まれた弁当があった。
放送室。入るのは二度目だ。分厚いドアを閉じると一気に音が少なくなる。閉められた窓の向こうには、校庭が見下ろせる。昼休みはまだはじまったばかりなので、遊んでいる人はいない。
「いいでしょ。」
番さんは、猫実さんのクラスメートらしい。背が高く、ひょろっとした、おかっぱ頭の女子だ。
「先輩、お助け部つれてきました。」
声が、響かずにさっと部屋にとけていく。部屋のすみに、眼鏡をかけた短髪の男子が座って弁当を広げていた。
「おう、番おかえり。先食べてる。」
巧と猫実さんも軽く頭を下げて、あいさつをする。
「じゃあ、こっち。」
番さんは、使われていない放送ブースを指さした。ガラス張りで、外から機材やマイクをのぞくことができた。
ドアを開けて革張りのソファーに腰かける。巧のとなりに猫実さんが座り、対面に番さんが座る。
「まあ、食べよっか。」
番さんが手に持った水筒と、弁当箱を机に出す。ヘッドホンやら台本やらが置かれていたので、片付けてくれた。
空いたスペースに、巧たちも自分の弁当を出す。
いざ誰かと食べるとすると緊張する。
「あれ…こうして、一緒に食べるのって珍しいですよね。」
猫実さんが、巧の顔をのぞきこむ。巧もうなずく。土曜日は放課後に部室で食べるが、それ以外の時は別々だ。
「えーと、巧くんだっけ。」
「あ、はい浅野巧です。」
「いやいや、タメ口でいいって。」
番さんは手刀を横に切るように、手をひらひらした。
「あたしは、番明梨。ざねっちとはクラスメート。」
番さんが、「ざねっち」といいながら猫実さんを見たので、巧は彼女のことだとわかった。
「猫実さんってざねっちって呼ばれてるんですね。」
「うん。ネコっていう人もいるし、普通に猫実さんでもいいし。名前がいっぱいあるって、のら猫みたいだねって。」
番さんは細い肩をひくひくと揺らして笑った。
「私はどう呼ばれてもいいですよ。」
猫実さんは、ぴんと指で自分をさす。
「じゃあ、猫実さん…で。」
「はい。」
巧はやっぱりいろいろな人に好かれているなあ、としょんぼりする。明るいし、頼もしいし、想像できたけど、自分だけが特別でいられるかどうか、不安になる。




