まっすぐに嬉しいこと
「お助けラジオの台本、どうします?」
巧は話を進めにかかる。
「あの、放送部の人に伺ったんですけど、昼休みの前半二十五分ぐらいがいいだろう、ということです。」
猫実さんは、さらっと放送部の人と接触できたらしい。巧はそうやっていろいろな人と話していくのがよいのだな、と知る。しかし、いくら仕事のためとはいえ、他の人に話しかけなくてはいけないのは、辛い。
「二十五分ずっと話すのですか?」
「いや、その中でも時間の配分を考えるべきって言ってました。」
猫実さんはスケッチブックに線を一本横に引いた。ぴーと筆先が鳴る。太い字が好きなのか、油性ペンが猫実さんのお気に入りだ。
「二十五分だと、二つにわけて、それぞれのコーナーで話題を変えるのがよいです。」
先ほどかかれた線の中心を分断する線が引かれる。
「余裕を持って、最後の五分は残すとして、十分のコーナーを二つぐらい。」
猫実さんは、指で「二」と巧にしめすと、またスケッチブックに書きたした。線の前半に
「一」、後半に「二」と名前をつけた。
「うーん。前半は僕たちが話題を持ってきて、後半はリクエストとか、お悩み相談に応えるのとか、どう? 聞いている人も参加的たりしたらいいですよね。」
巧は、自分だったら昼休みに教室で座っている理由ができそうで嬉しい。
「そうですよね。」
猫実さんがこくりとうなずいて賛成する。
リクエストコーナーと、スケッチブックに書き足される。
「その場合、リクエストの募集をかけなきゃいけないですよね。チラシでも作る?」
「うーん、やることたくさんありますね。」
今日は小説を書いている暇はなさそうである。
話し合ったり、チラシの文面を考えているうちに、あっという間に下校時刻になった。今回の「お助けラジオ」にあたっては、猫実さんも手探りなので、二人で知恵を出し合わなくてはならない。意外とそういう作業は初めてかもしれない。お助け部で待つしかなかった時と比べると大きな進歩だ。
「いや、進歩どころじゃないです。革命です。コペルニクス的転回です!」
猫実さんは空に手をかざして言った。九月と言ってもまだ日は長い。夕方の空には明るさが残っている。
「自分から助けに行ける。声を拾えるようになるんです。」
伸ばした手をぐっと握って、猫実さんはそのまま空を見た。巧は隣を歩きながら、大袈裟なぐらいに喜んでいる猫実さんに見とれていた。誰かのために何かをする、それがたぶん猫実さんがまっすぐに喜べることなのだ。
そして今の自分には、猫実さんとこうして何かをすることが素直に嬉しいと思えることなのだ、と気がついた。
帰りの電車で巧は本も開かず、今日のことを思い出して、考えにふけっていた。勝浦に少し話しかけられただけで、「誕生日」かと思われるほど、舞い上がる自分。
そんな、なんでもないことが、自分にとって嬉しい。猫実さんにはうまく言えなかったけれども、説明したかった。
そして、猫実さんと一緒にいることも、嬉しい。
それこそ、今、自分が表現したいことだと巧は思った。書きかけの小説の続きが、突然に開けたような気がした。




