ほんのひととき
孤独のスタイルは、人それぞれなのだな、と巧はぼんやりと考えながら弁当を食べた。教室で、じっと一人で食べるのが自分のやり方だった。さっきの彼女のように屋上で一人で食べるのもいいかもしれない。今日は勝浦たちがいて、一人きりではないだろうけど。
窓の外は、まぶしいほど青い。九月はまだ夏の続きだ。今ごろ屋上で、一人で食べている彼女を想像する。さびしいだろうか。それとも、綺麗な空を見上げながら、ただ食べているのだろうか。心配するのは余計なお世話だと思うが、考えずにはいられない。
勝浦を追うのに時間を使ってしまったので、食べ終わったころには、休み時間は五分しか残っていなかった。弁当をしまうと、代わりに本を取り出した。読みはじめようと思って手が止まった。勝浦の言葉を思い出した。本をしまって、夜桜ファンを取り出した。
けばけばしいピンクの表紙は、何度見ても恥ずかしい。夜桜先輩を愛する者たちの、情熱、いや怨念の結晶。そういう風に、何かを強く念じることが、巧は怖いと思った。先輩のような、誰もがあこがれる人に対しては、なおさらそうだ。
どうして勝浦は、それができるのだろう。考え始めると、教室で談笑している生徒たち全てが疑問に思えた。どうして、誰かと何も考えずに、自然に笑ったり、語り合ったりできるのだろう。
帰りのホームルームが終わる。
「浅野。」
勝浦の声がした。
巧は振り返る。
「途中まで一緒に行こう。」
勝浦はいつものように巧の肩をたたいた。
「今日も文学部。」
「ああ、毎日や。」
「すごいね。」
「どうせ、浅野も毎日書いてるだろ。」
勝浦は、眉をくい、とつりあげて笑った。
見抜かれた、と知って巧は恥ずかしくなる。ただうなずく。
「あの。そういえばこれ、見せたいと思って。」
そういえば、が何にかかっているのか知らないが、巧はとつぜんバッグの中をあさりはじめた。勝浦が足をとめる。巧が取り出したのは、原稿用紙の束だった。差し出された勝浦は、目を見開いて、巧を見る。
「これ、お前が書いたのか。」
原稿用紙と、巧を交互に見る。文字が紙を埋め尽くし、束になり質量を持つ。そこまでのエネルギーが、いとも軽々しく取り出されて、あぜんとしている。
「うんまあ、無駄に長いだけ。」
巧は両手で、それを支えながら、軽くゆらす。勝浦はうながされるまま、それを手に取る。
「うお、おもい。」
思わず、笑いながら巧を見る。巧もそれを見て笑う。勝浦がそれをバッグにしまうと、また二人は歩き出した。
「あの、桜侍、どうやって書いたの。」
「どうやって? まあ、ストーリー考えて、プロット立てて、意見もらって小説書く。」
勝浦はすらすらと応える。話なれている風だ。
「プロットと小説ってちがうの?」
「プロットは、うーん、台本見たいなものや。大体こうなって、って書いとく。それを見ると、ここではこう書くとかがわかる。」
「うーん。それを書くぐらいなら早く書きたいってなっちゃって。」
「あー。別にいいだろ。リッカーもプロット書かないですぐ書くって言ってた。」
「へえー。」
巧はほおが勝手につりあがって、動いてくるのを感じた。こんな会話が楽しくて仕方がない。今すぐにでも、書きたい気持ちがわきあがった。
勝浦は新部室棟。巧は、校庭の脇のプレハブ棟に分かれてっいた。ほんのひとときの会話が終わった。




