すれちがい
「…悪いが、そろそろ会議だから、いいか?」
先輩の一言で話が途切れた。
「ごめんな浅野。」
「うん。」
「じゃあ。」
二人は屋上の鉄の扉をあけて、外に出ていった。一瞬明るくなって、まぶしい光が、暗い階段を照らした。それから、ずしん、という重い音が鳴ってまた、暗くなった。
巧は気が抜けたように、階段に腰掛けた。深いため息と、自己嫌悪が胸をよぎった。それを、消化するためにじっとぼんやり考えていた。自分のさっきの会話をもう一度頭の中で繰り返した。
二人にとって、関係のない話をして迷惑だったにちがいない。と思った。
どうしたらよかったのだろう、と考えはじめると止まらない。そもそも勝浦は親衛隊で忙しいのに、自分が声をかける必要なんてあるのだろうか。もっと自然に教室にいるときに話せたらいいが、普段は周りの席の人や、元気のある男子に囲まれていて、巧が入る隙がない。
人に声をかけるのが、こんなに大変だとは思わなかった。ため息をつくと腹がぐうと鳴った。今日も一人で弁当を食べることになるだろう。その方がなんだかんだ言って、疲れないことに気が付いた。
自分は、自分なりに楽な方法で過ごしていたのだ。
顔をあげると、一人、女子生徒が階段の踊り場に立っていた。すこし下から巧を見あげて、何かいいたそうにじっとしていた。手にはビニールで包まれたパンがひとつ。
巧は階段に腰掛けたまま、彼女をみた。何も言葉は交わされなかった。長い髪をそのまま下におろした、人形のような人だった。
巧は、やっと自分が邪魔で通れないのだと気がついた。立ち上がると、彼女の横を通り過ぎて下の階に降りていった。通り過ぎるときに、お互いに道を譲り合った。それだけで、なぜか自分の体がそこに存在すると、久しぶりに感じたような気がした。彼女もまた一人だった。それだけは巧にも察知できた。




