言いたかったこと
昼休みになった。巧はまたふり返って勝浦の様子を見る。何やら教科書をしまうと、急いで立ち上がって、どこかへ行こうとしている。巧は今度こそ思いきって彼を追いかけようとした。
「勝浦。」
こうやって誰かを呼び止めるなんて、いつ以来だろう。遠慮してしまって、うまく声がでない。どのぐらいの大きさで、声を出せばいいのか。ずっと黙って過ごしてきたから、忘れてしまった。
勝浦は廊下を一直線に進んでゆく。そして階段をのぼりはじめた。二階にさしかかると、二年生の先輩らしき男子生徒が勝浦に声をかけた。二人は威勢よく声をかけあい、さらに上の階に向かってゆく。巧は声をかけるタイミングをつかみそこねた。
それでも、引き返すのも気まずく、彼らの行く先を追っていった。絶えず階段を上ってゆく。気がつけば屋上に向かう暗い階段にさしかかっていた。人気がなくなり、前の二人が巧の足音にふり返った。
巧は胸が痛くなる思いで、二人の目線を受け止めた。今更、どうしてついてきてしまったんだろうと思う。
「すいません。」
消え入りそうな声で巧は言った。
「浅野、どうした?」
「勝、知り合いか?」
二年生の先輩は巧を見て確認した。
「クラスメイトの浅野君っす。」
「はじめまして、浅野巧です。」
巧は階段の下から自己紹介をした。すると先輩は何かを言った。うまくききとれなかった。さりげなく階段をあがり、二人に近づく。
「すみません、今何て?」
「…ああ、君も新入りか?」
勝浦と先輩がこちらを見る。
「新入り…って。」
想定外の単語だった。
「俺たちは、夜桜親衛隊の幹部だ。親衛隊に入りたくて来たんじゃないのか?」
「ち、ちがいます」
巧は変なところまでついてきてしまったと、後悔した。
先輩は少し眉をしかめて、
「なら、何の用だ?」
と巧を見る。
「あの、勝浦に言いたいことがあって。」
「ん、オレか?」
勝浦はあごの下に指をさして、意外そうに言った。ずっと探して追いかけていたのに本人の方は、全く気がつかなかったらしい。
巧がうなずくと
「何、どうした?」
と真剣な顔をした。
「あ…。昨日勝浦の夜桜ファンの小説読んだけど、面白かったよ。」
「お、おうありがとな。」
勝浦は戸惑いつつも、パッと明るくなって巧の肩をたたいた。巧はやっと言えてすこしほっとする。
「他のも読んだか?」
「いや勝浦のだけ。」
「そっか、他の先輩達のも読んでみてくれや。いい文章だから。」
「うん。」




