お客さん
「ごめん浅野、許してくれ。」
勝浦の後頭部がとつぜん振り下ろされた。巧はとっさに後ずさる。廊下に彼の謝る声が反響した。腰を直角に曲げて「ごめん」ともう一度勝浦が言った。
巧はあわてて、彼を元の姿勢にもどそうとして「いやいやいや」と口ごもりながら、周りをきょろきょろ見回す。
「いいから、顔をあげて。」
やっとその言葉を言うと、少し語気が強くなってしまった。
勝浦はすっと顔をあげて巧の目をみた。茶色の大きな瞳だった。何を言っていいのかわからずに、巧は目をそらす。こうしていても、立っているだけになってしまうので、「お助け部はこっちだよ。」と歩き出した。
勝浦は巧を部室まで送る、と言ってついてきた。巧はそうする必要がわからなかった。しかし、勝浦はどうしても送らせてほしいと申し出た。リッカーと村田先輩は緊張した目で巧を見た。勝浦が少し意地になっていたので、意見が衝突するのを心配したのだろう。
「オレ、本当に感心したんだ。」
勝浦は、ほおを指でかきながら言った。
「クラスで目立たない浅野が、あんな真剣に書いてるなんて。」
勝浦は照れたように、全然違う方を向きながら巧をほめた。巧が見ているのに気づくと、わかりやすく作り笑いをして、
「あ、目立たないって悪い意味じゃないぜ。えっと、お助け部ってどっちだ? こっちか? いやこっちか? 」
とうろちょろと廊下を見回す。巧はそんな勝浦が面白かった。
むずかゆい気持ちになって、
「いや、書くのが好きだから。」
と言った。
「そっかそっか。浅野はなんでお助け部に?」
「…」
なんでと言われても、うまく答えられなかった。
勝浦はそんな巧を見て、
「まあ、やりたいことをするのが一番だしな。浅野はそのままでいいわ。」
と、ぽんと背中を軽くたたいた。巧はなんとなくうなずいた。
校庭に出てプレハブ棟に向かう。学校の工事は終わってないようで、このプレハブ棟もいつかは違う建物になるのかもしれない。
お助け部、と猫実さんの字で書かれた看板を見て、勝浦は目を丸くした。
「はあ、本当にあるんだな…。お助け部。」
「うん。中も見る?」
巧はドアを開ける。
教室ひとつより、やや小さい空間に、ポツンと机が二つ並んでいる。物は小さなカラーボックスにノートが並んでいるだけだ。そのあっけなさに、勝浦は驚いたようだった。
机に座っている猫実さんと目があう。何か書類を見ていたようだ。机の上に、ボールペンと紙が何枚か置かれている。
「お、巧さん…、あれ、お客さんですか?」
猫実さんは、勝浦を見て、ニコニコと、やわらかそうな頬を緩める。




