あのおとなしい浅野が
文学部の部室には、大きな机が一つ真ん中にある。そこに部員が座って、作品を作るのだろう。じっと向き合いながら、書く気分は想像できない。巧なら部屋の隅においてある一人用の学校机に座って書くだろう。
「さて、さて、書いたものみせてくれよ。」
勝浦が、目をきらきらさせて、巧を見る。同時に、何かを試すような目だ。
「ちょ…まずは自己紹介でしょ。」
「サノ君だったっけ。」
先輩に言われて、巧は訂正する。
「あ、浅野です。」
「何年生?」
「一年生。」
人差し指を立てて、「一」と指し示す。
「じゃあリカコ達と同じだ。」
「オレと同じクラスです。」
勝浦が胸に手をあてて言った。
「わたしは、村田三矢。今二年生で、文学部の部長やってます。よろしく。」
「村田先輩ですね。」
「うん。」
名前をききまちがえていないか、巧は確認した。わからないまま後で聞き直したりするのは気まずい。
「あたしは、小峰立花です。リッカーとかリカコとか呼ばれたりします。」
「小峰さん。」
「リッカーでいいよ。」勝浦が言う。
「あ、じゃあ、リッカーさん。」
と巧が言うと、こくりとうなずいて「さん、はいらんけどね。」と黒い大きな眼鏡をずりあげた。
「んで、オレは勝浦勝。よろしく。」
勝浦は文学部というより、どこかの運動部のように見える。声もはきはきしているし、背が小さいとはいえ、体はがっしりしていて大きく見える。
「浅野君も小説書いてるの?」
村田先輩が、落ち着いた口調できく。冷静だが、怜悧な感じはしない。ちゃんと対応すれば聞いてくれる、と安心して巧は言葉を選ぶ。
「書いてるんですけど、今見せられるようなものはなくて…。急に勝浦に連れてかれて…。」
巧は机の上の「夜桜ファン」に目を落とした。
「勝、どういうこと?」
「あ…いや、つい…。」
村田先輩に問い詰められて、勝浦は口ごもる。その隣からリッカーに、ぺし、と手の甲で叩かれる。
「いやでも、凄かったんだぜ。さささささーって、鬼気迫る目で…。あのおとなしい浅野がこんな顔するんだって。」
リッカーの手を払いのけて、勝浦は必死に弁解する。
「なあ。」と目を向けられた。巧は、彼が本当に自分の書く姿に感心したのだと今更、気がついた。




