連行
「ちょっと勝、どしたの?」
後ろから女子生徒の声がした。ふり返ると、眼鏡をかけた目がものめずらしそうに巧を見た。そのあと、すぐにあわれみの目に切り替わった。巧はなんとか助けをもとめようと、彼女にこくりと会釈を返した。
「話してあげなよ。かわいそうでしょ。」
「まあまあ、リッカーも、そうあせるなって。仲間を見つけたんだぞ。」
勝浦は、巧の肩から腕をほどいて、背中をパンとたたいた。『リッカー』と呼ばれた少女は「で、誰。」という顔で巧を見る。
「俺と同じクラスの……。名前なんだっけ。」
巧の方こそ、「誰」と聞きたかったが、理不尽な状況を切り抜けるには、それに身をまかせるしかない。
「浅野巧です。よろしくおねがいします。」
「そうそう。浅野だ。こいつも小説を書いてる。」
「マジ?」
リッカーは声を張って勝浦を見た。巧とは関係なく、彼は得意顔で「そうや」とほほえんでいる。
「休み時間にサササササーと書いてた。」
「サササササー?」
リッカーは眉をつりあげてくり返す。
「ああ、迷いなく書きなれた手で。」
二人の視線が、巧に集中する。急に心拍が早くなって、口がうまく回らなくなる。
「あの、まあ…趣味です。」
「ちょっと、読んでもいい?」
「いやそれはちょっと…。」
巧は耳まで赤くなってあわふためく。今書いているのは、花火大会に行く男女の短編小説だった。ベタすぎて恥ずかしいので、どうにかしたいと思っていた。そもそも、恋愛小説をひとりて書いていると知られるだけでも恥ずかしい。
「まあ、ここではなんだから、部室いくか。」と勝浦はうなずく。
「そうしよう。」リッカーが勝手に合点してまった。
「えっ……。ちょっ…。」
巧は抵抗しようとしたが勝浦に肩を組まれているので身動きできなかった。




